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296議席も獲得すれば、農水官僚にとって「これだけはご免!」という面々も混じっている。その筆頭格は、往年の名悪役コンビ、SとMの両代議士だ。
イニシャルでおわかりの方はかなりの政治通。MはSを総理にする会の代表だったが、Sが汚職容疑で逮捕されるや派閥の親分をサッサと裏切り、いまや小泉親衛隊の隊長格を自認。選挙戦では「次は農水大臣だ!」と手形を乱発して票を集めていた。農水官僚はこのSMコンビに相当煮え湯を飲まされた苦い思い出がある。
「これだけはご免!」のニューフェイスもいる。故あって、X代議士としておこう。知られざる農協界のドンである。ディープな世界の事情通だけが、この人物のことをよーく知っている。
例えば、某農協組織の会議で「お前ら!、何やっとんねん」と関西弁丸出しで怒鳴り散らし職員を震え上がらせている。議員会館で農水官僚を相手に同じシーンが再現されるかと思えば、農水官僚には「ご愁傷様」としか言いようがない。
もし民主党の勝利に終わった場合はどうだったのだろうか。民主党のマニフェストには農水官僚が八つ裂きにされかねない公約が並んでいた。その一つは局長級幹部の任命制導入。もう一つは補助金バラマキ政策だ。
前者は、米国でポリティカル・アポインティ(政治任用)と呼ばれている制度。すなわち政権が代われば、高級官僚がゴッソリ入れ替わる人事制度を日本でも取り入れるというものだった。もし民主党政権になっていたら、農水省でも局長級に民間人登用というケースもあり得たのだ。日本でもやがては政治が官僚を制していくと思われるが、これはその萌芽のようなものである。
後者の補助金バラマキはどうか。民主党が大敗北を喫したのは、小さい政府の自民党、大きい政府の民主党という、自民党のネガティブ・キャンペーンが奏を功したからである。かねてから不思議だったのは、民主党の農業政策。都市に選挙基盤がありながら、どの政党よりも農村や農業にベタベタの政策を掲げていたことである。いずれ馬脚を表わして、都市住民から大しっぺ返しを受けるに違いないと思っていたが、それにしても高い代償になった。
民主党は先の参院選でも農業問題を熱心に取り上げていた。目玉は、政府が2007年度から導入予定の直接支払い。政府に先行するがごとく、直接支払いの規模を金額で明示してきた。それも「1兆円!」と。これには都市部選出の代議士から、「あんな政策、農村で1票獲得できても、都市部で10票減らすだけ」と酷評されていた。皮肉なもので、その代議士はあえなく落選、そのバラマキを公約に掲げた農村部選出の張本人が当選していた。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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