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周囲の環境への影響
天敵の利用に関しては、農業現場だけではなく周辺の環境や生物に対する心配をされる向きがあると思う。それは、導入した天敵の土着化による周りの生物相や環境への影響である。
現在までの追調査では気候の変化に適応できずにほとんどの天敵が死滅しているようだが、ごくわずかに土着化の例も見られるようだ。それでも以後の防除に役立つほどの数ではまったくなく、発見することができたという程度で、環境に対してもほとんど影響ないだろうといわれている。
望まれるトータルな取り組み
以上のように、化学合成農薬に代わるものとして期待される天敵の利用であるが、現状では代替製品としての過大な期待は禁物である。天敵の利用を含む生物農薬の使用はその特徴や目的を明確にしなければならない。研修会の中でも強調されていたように、産・官・学、そして農家の協力で実用的な使用方法が検討されなければ、普及は難しいといわざるをえない。
農薬の使用の削減を目指すのを目的とするならば、天敵製剤の利用をその一助と位置付け、農薬の関連メーカーを越えた協力体制をつくり、本当の総合的な防除プログラムを作成すべきではないかと思う。
現在のところは、紫外線力ット農ビとの組み合わせなどはおこなわれているようだが、そのほかにもマルチ資材、潅水方法の変更などでも雑草の防除やひいては害虫の防除につながるのであるから、まったく別の分野との組み合わせで総合的な防除ができる可能性があるのではないか。
また、自然の生態系を利用した生物利用の防除方法があるならば、栽培している作物の生理、生態を利用して病害を減少させたり、収量を増やしたりすることも可能なのではないか。実際に従来の施肥の数分の一しか肥料を使用しなくても、全体環境の見直しや、栽培体系を変えることで収量を確保し、生理障害や病害を減少させることも可能になってきているし、取り組みも本格的に始まっている。
日本の農業において生産コストの削減は至上命令であり、単体の製品のコストアップは受け入れがたくなってきている。防除という枠組みにとらわれることなく、資材の見直しまで含めたトータルな栽培体系の中で、全体のコストを見直すことが必要なのではないだろうか。そのような大きな体系を作ることは単一のメーカーや研究機関でできるものではない。本来関連のないメーカーや研究者が共通の目的のもとに参集することによって初めて可能になる。
農業界ではそのような大きな動きはまだ少ないが、他の産業界に目を向ければ技術や製品の進歩、流通の改善に対する要求は厳しさを増し、単独の会社でおこなうのが困難になり、ライバル同士が手を結んだり、川上から川下までの企業が一貫した体制を協力して作り上げたりすることは珍しくなくなっている。なんらかの形で防除体系をも越えたトータルな技術に作り上げて欲しいと思う。
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