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Opinion

役人セールスマンのぼやき

  • 宮崎県産業経済部 食産業・商業振興課 食産業振興専門監 三輪宏子
  • 2005年07月01日
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宮城県に「任期付民間採用第一号」ということで就任してから、早いものでもう2年が経とうとしている。「食材王国みやぎ」の食のセールスマンとして雇われたものの、実は行政は一番「営業=セールス」という考えからは遠い存在で、「これから(県産品を)売り込みに行ってきます」などと言おうものなら、回りはたちどころに目くじら立てる役人だらけ。最初の半年は、出勤すればほとんど毎日のように何かしらカルチャーギャップを感じる出来事があり、行政と民間との間にはこんなにも深い溝があるのかと驚愕させられたものだった。(今でも1週間に最低1~2回はあります)
 宮城県に「任期付民間採用第一号」ということで就任してから、早いものでもう2年が経とうとしている。「食材王国みやぎ」の食のセールスマンとして雇われたものの、実は行政は一番「営業=セールス」という考えからは遠い存在で、「これから(県産品を)売り込みに行ってきます」などと言おうものなら、回りはたちどころに目くじら立てる役人だらけ。最初の半年は、出勤すればほとんど毎日のように何かしらカルチャーギャップを感じる出来事があり、行政と民間との間にはこんなにも深い溝があるのかと驚愕させられたものだった。(今でも1週間に最低1~2回はあります)

 ところで、自称(?)セールスマンである私が、海の幸、山の幸、野の幸と食材豊富な宮城県で何に一番困ったかというと、それは県民のほとんどが、食に「困っていない」という実態である。日本の食料自給率は4割だとかで、「日本はこれから食料がなくなるから大変」とは農水省やら有識者やらの得意の台詞だ。しかしながら東北は、宮城県と福島県の約8割を除き、他の4県は軽く100%を超えており(もちろん米が圧倒的だが)、1世帯あたりの平均年収400万円を「貧しい」と見るのは、まさに東京もんの視点である。仮にいま一文無しで放り出されても、おそらくは「食っていける」ということの豊かさを、東北へ来て初めて知る。これが本当のカルチャーショックというものだろう。

 目を転じれば、こういう「豊かさ」の実態とは別に、商売の現実に行き当たる。とりあえず売上はたつものの利益がでない。日常、供される食品は、もともと小売単価が安いものだ。

 小売のマージン(モノによるが、平均して30~35%、買い取りだと45%程度)から逆算して、加工人件費に物流費、そして返品コスト(これがバカにならない)、ますます厳しくなる品質管理の検査費用や、法改正のたびに刷り直さなくてはならなくなる包装資材費、加えて販促宣伝費や、加入しないと取引してもらえない保険費等々……これらのコストを積算していくと、メーカーや生産者は一体どこから利益を出せばよいのだろうか。厳しくこそなれ、緩和されることのない取引条件を思うと、現実の流通構造には首をかしげるばかりである。

 もちろん、我が県の9割を占める中小零細の製造メーカーや農家が、こういう諸条件に応えていくのは難しい。飯は食えても商売の中身はいたって面白くない。こういった点が「豊かさ」を半減どころか、大半の食産業従事者を惨めな思いにさせる最大の要因となっている。こういう環境下にあっては市場動向やらマーケティングなど、どこ吹く風にもなろう。

 東北へ来て、これが「みちのく」の家庭の味と思われるいろいろな味に出会った。たとえば農家のおばちゃんの数だけある漬け物文化。さすが飯どころである。こういう味を何とか残し、また、広く県外の人にも味わってもらうためには、消費者に支持される企業体質とモノづくりの手法を身につけていくしかない。これは補助金(交付金)行政では解決できない問題だ。これに向き合うことがこれからの地方自治体の課題でもある。

 なに、組織が大きくなれば社員に世間知らずが増え、社会の非常識をやらかしてしまうのはどこの世界でも同じこと。冗談抜きで西日本の某民間鉄道会社をはじめ、行政より始末が悪い企業の例には枚挙に暇がない時代だ。我が国の首相が「靖国参拝問題」を論じている間に日本の食が壊れていく。アイデンティティの崩壊のほうがよほど脅威である。

 『今こそ本来のナショナリズムに目覚めよ、地方自治体』と、役人セールスマンはつぶやく。

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