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【編集長インタビュー】
マーケティングのない日本農業 植物工場ならではの付加価値を
- 東海大学 教授 高辻正基
- 第11回 2005年06月01日
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マーケティングのない日本農業 植物工場ならではの付加価値を
昆 30年ほど前、先生が日立製作所の研究所におられた頃に取材でお話をうかがったことがあります。その時「農業の人は経験主義だからね」と語られたのがとても印象的でした。経験主義に陥って堂々巡りしている感のある農業の世界ですが、先生が携わってこられた植物工場の技術は、既成の農業観にとらわれない新規ビジネスとしての農業の新しい可能性を開くものだと思います。まず最初に、この植物工場とはいかなる技術なのか、簡単にお話しいただけますか。
高辻 一言で言うなら、植物生育の環境である温度、光、二酸化炭素、肥料などをコンピューター制御することによって作物を周年生産する技術ということになります。
光源には太陽光のほか蛍光灯やLEDなどの人工光を利用します。季節や天候に左右されずに野菜が作れるということに加え、パソナの「地下農園」のように都心やビルの中でも作れる点が特徴です。また、無農薬、新鮮、清潔、高栄養価などの付加価値を付けた作物を作ることができます。もっとも、なんでも作れるわけではなく、葉菜や苗が中心ですが。
昆 ビジネスとしての採算面から見ると、どうなのでょう。
高辻 そこが問題なんです。いま完全制御型の植物工場は全国で十数カ所あります。
利益が出ているところもあるのですが、全体的にはギリギリのところにある。いちばん肝心なことはマーケティングではないかと思います。今、世間が何を求めているか。例えば安全を保障する方法で作ったことを証明するデータを付ける。そういったことが十分されていないんです。
昆 日本の農業には政治と技術がある。しかし経営がないと私は思います。農協や農林省という組織が非常に強いため、そうした土壌ができてしまった。
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高辻正基 タカツジマサトモ
東海大学
教授
1940年、東京生まれ。1962年東京大学工学部応用物理学科卒。1962年日立製作所入所。中央研究所主任研究員、基礎研究所研究主幹を経て、現在は東海大学開発工学部生物工学科教授。植物工場については1974年より研究を開始。この分野のパイオニアとして、つくば科学万博のレタス生産工場、ダイエーのバイオファームなどの植物工場を手がけ、1989年に日本植物工場学会を設立。2005年、高辻教授の指導のもと、大手町のビルの地下に作られた地下農園「パソナO2」は、新しい都市型農業の可能性という面からも注目を集めている。文科系と理科系の融合をめざす「文理シナジー学会」会長でもある。「植物工場の基礎と実際」(裳華房)「文理シナジーの発想―文科と理科の壁を越えて」(丸善)、「知の総合化への思考法―科学的思考と直感」(東海大学出版会)など著書多数。
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