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高辻 それがネックになっているのは確かですね。私が代表を務めている植物工場研究所にも、ホームページを通じて「植物工場をやりたい」という相談が入ってきます。でも、ただ植物工場をやってみたい、植物工場でレタスを作りたいというだけではビジネスとして成立しません。どういう付加価値を付けてマーケティングするかが重要なんです。植物工場の場合、完全無農薬で清潔だという点は保障されています。洗わなくてすむので、サンドイッチメーカーや焼肉店と契約しているところもある。でも、全国の焼肉店の数から見れば、それはごく一部。PRが足りない。そこまで企業として発達していないんです。
昆 私の尊敬する農家で茨城で贈答用の栗を作っている方がいます。その方の作る栗は1kg4千円もして、パッケージも凝っています。その方は「私は栗を売っているのではなく、文化を売っているんだ」とおっしゃっていました。
高辻 まさにその点なんです。これから植物工場をやろうという人が、すでにやられていることを同じレタスをやっても意味がない。むしろ、たとえば青汁で有名なケールがありますが、今のケールは農薬だらけなので、それを植物工場で無農薬でやる、というように植物工場ならではの特性を付加価値にして高く売る。そういうアイデアが大切なんです。
緑化やグルメを含む新しい都市型農業の可能性
昆 日本には経営と結びついた農業という考えが無視されています。これは農学という学問分野の上では、どうなのでしょう。
高辻 農学の世界でも「農学栄えて農業滅びる」という言葉があるくらいです。情けないことにアカデミズムの世界でも、現場の農業をどうするかということは話題にすら上りません。中にはまったく役に立たない研究なのに賞を取ったりしている。もうかるかもうからないかというのが最初にないと、みんなあらぬ方向に行ってしまう気がします。そこにはメディアの問題もあると思います。
昆 先日、農業関係の6学会が連合で遺伝子組み替えを冷静にとらえようという会議がありました。しかし、メディアは、大衆が遺伝子組み替えに反対していることに配慮してか、ほとんど取り上げませんでした。
高辻 遺伝子組み替えはたいへん重要な技術です。遺伝子組み替えによって生産量が増えるわけだし、農薬の適性利用もできる。農家も、より経営しやすくなる。危険性についても、できるだけの対策がとられている。メディアはそういうことをきちんと伝えるべきです。私は遺伝子組み替えを拒否することは、長い目で見ると見当外れだと思います。
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高辻正基 タカツジマサトモ
東海大学
教授
1940年、東京生まれ。1962年東京大学工学部応用物理学科卒。1962年日立製作所入所。中央研究所主任研究員、基礎研究所研究主幹を経て、現在は東海大学開発工学部生物工学科教授。植物工場については1974年より研究を開始。この分野のパイオニアとして、つくば科学万博のレタス生産工場、ダイエーのバイオファームなどの植物工場を手がけ、1989年に日本植物工場学会を設立。2005年、高辻教授の指導のもと、大手町のビルの地下に作られた地下農園「パソナO2」は、新しい都市型農業の可能性という面からも注目を集めている。文科系と理科系の融合をめざす「文理シナジー学会」会長でもある。「植物工場の基礎と実際」(裳華房)「文理シナジーの発想―文科と理科の壁を越えて」(丸善)、「知の総合化への思考法―科学的思考と直感」(東海大学出版会)など著書多数。
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