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編集長インタビュー

マーケティングのない日本農業 植物工場ならではの付加価値を



昆 メディアに煽られた科学者が大衆に迎合してしまうという状況もありますね。

 そのような中で、先生が30年も前に既成の経験主義的な農業観にとらわれず「農業は都市でこそ成立する」と語られたのは衝撃的でした。


高辻 都市型農業というのは、昔からありますが、私はこれからはもっと多様な要素が含まれてくると思います。これまでのようなアトリウムの緑化や屋上緑化だけではなく、日の当たらないビルの地下に癒し空間を作り、グルメ空間と組み合わせて、植物工場をディスプレイとして使うこともできる。植物工場を利用した都市型農業は、そこまで広い意味で考えていいと思います。

昆 農業をやろう、じゃあ、いま流行の植物工場だ、というのではだめなんですね。

高辻 それでは経済的に成立しないんです。現在、整理してみると植物工場の課題は三つあります。一つは人工光にコストがかかるので、いかに効率的に光を当てるかという技術的課題。二つ目は設備をいかに安く作るかという課題。三つ目は、どういう作物を選ぶかです。赤色LEDが安いので、赤だけで育つある種のレタス、イタリアンパセリやコリアンダー、バジルなどはたしかに有力ですが、作るだけではなく、先ほどもいったように、そこにどのような付加価値を付けるかがカギです。
 ただ、近々青色LEDも安くなるでしょう。そうなると、青と赤を混ぜられるので、ほとんどどんな作物にも応用できるようになります。LEDはきれいですから、生産現場をそのままディスプレイとして使い、レストランなどにも使える。そんな新しい農業を実現していく手段として植物工場というシステムが使えると思います。


日本のポテンシャルを活かした農業ビジネスを


昆 ところで、高辻先生は理科系と文科系の交流をめざす「文理シナジー学会」を主宰されていますね。

高辻 文理シナジー学会を作ったのは9年前です。当時は地球環境問題やインターネット社会が盛んに議論され始めました。こうしたグローバルな問題を考える上では、理系と文系の両方の知識を身に付けた人材が必要なんです。そこで、この学会を立ち上げたんですが、実際にやってみると難しい。個々の発表は面白いのですが、サロンになってしまうというのが現実ですね。

昆 もともと日本には理科系と文科系という分け方はなかったはずですが。

高辻 明治維新の頃、富国強兵政策で工学に力を入れるようになり、一方で法体系を整備するために、法律関係の大学ができた。ただ、法科に比べて工学は一段低く見られていました。その傾向が、今日の官僚国家にも受け継がれているのでしょう。農業についても新しい技術や科学が出てきても、それが現実には農業という産業を活性化するのに結びついていかないのは、そのあたりに一因があるのかもしれません。

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