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Opinion

「食品に関するリスク・コミュニケーション」を体験して

  • 山陽薬品(株) 代表取締役社長 大森茂
  • 2005年06月01日
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去る2月10日、中国四国農政局主催の「食品中の化学物質の安全性に関する意見交換会」がありました。農水省・食品安全危機管理官の朝倉健司氏が「化学物質の国際的なリスク管理について」、また農薬対策室の小峯喜美夫氏が「農薬の適正使用について」の基調講演が行なわれ、その後のパネルディスカッションで、私がパネラーとして参加する機会がありました。
 去る2月10日、中国四国農政局主催の「食品中の化学物質の安全性に関する意見交換会」がありました。農水省・食品安全危機管理官の朝倉健司氏が「化学物質の国際的なリスク管理について」、また農薬対策室の小峯喜美夫氏が「農薬の適正使用について」の基調講演が行なわれ、その後のパネルディスカッションで、私がパネラーとして参加する機会がありました。

 講演を行なったお二方の他、生協理事やスーパーのトレーサビリティー担当者、食品安全委員会や独立行政法人農林水産消費技術センターの方らがパネラーとして登場されました。そんな中で私は、化学物質の一つとして使用される農薬を製造販売する立場でした。コーディネーターは、農林水産省消費安全局の消費者情報官である姫田尚氏が担当され、聴講参加者からも意見や質問を引き出しながら、双方向でのディスカッションをリードされました。

 その内容につきましては、既に農政局ホームページ上に、議事録や参加者のアンケート結果も含め、情報公開(※)されておりますので割愛しますが、参加して感じたことが、いくつかあります。

1.リスクと一口で言っても、その範囲と程度は人によって千差万別であり、なかなか一概に定義しにくいこと。(化学物質過敏症も含めて感受性の違いと気持ちの問題)

2.知識レベルも大きく違っており、詳しく説明する時の専門的な話は、かえって理解してもらいにくいこと。(説明する人の人柄も含めた説得力の問題)

3.一番大きいのは、リスクをゼロにしようとした時のマイナス面が十分に伝わっていないこと。(メリットに目をつぶり、デメリットを誇張する風潮の問題) それだけに、それぞれの立場を超えた討議の場を設けて、コンセンサス(合意)を得る必要があるように思いました。

 食品の安全性の話ではありませんが、リスクが取り沙汰される出来事が起きました。今、テレビや新聞は、運転手を含め107名もの死者を出したJR福知山線事故の話題で持ちきりです。安全・安心だと思っていた信頼が揺らいだ時の反応の怖さを思い知らさせるような感じです。残念ながら交通機関のリスクはゼロでないということは誰しもが十分承知のはずなのですが、一度事故を起こすと、何もかも否定するような大津波のようなうねりが襲って来ます。マスコミに対する恐怖心はもちろん、嫌悪感すら私は覚えます。

 運転手や車掌、運行責任者としては、定時運行という職務に忠実であろうとして、スピードの限界と限界を超えた怖さを知らなかったことを、また人間のミスをカバーするための設備投資を、JRは今後どう組織として反省し改革していくのかが課題となっています。これはJRだけにとどまらずJALや羽田空港の管制官の問題も含め、「交通機関」として共通する事項だと思います。

 省みて、農業場面で食品の安全について今一度思い起こせば、BSEや無登録農薬、そして表示偽装問題と、消費者の信頼を裏切ることが相次いだだけに、今は、その本質的な問題点をどう解決していくかを考え直すのに、良いチャンスなのだと思います。

 農薬についても同じです。小さなことも潜在的なリスクも含め、どのような場面で問題が起きるのかということを、使用者である農家や農産物のユーザーである消費者にもっと情報公開して理解してもらい、一方で農薬の役割・必要性について、消費者の素朴な疑問や専門的な質問にもっとわかりやすく説明する。そうした上で、農産物の生産現場での知恵を農薬登録に反映させる仕組み作りが必要であるのではないかと思います。

※1 http://www.chushi.maff.go.jp/anzen/kokumin/risk/riskcommu050210.htm

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