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そうしてやっと牛舎へ入れたものの、搾乳方法がこれまでと違うので、これまた牛たちがいうことをきかない。前脚を突っ張って搾乳場へ入らないものもいて、4~5人がかりで押さなければならなかった。人間も大変だが牛も大変である。環境が変わったために精神的に不安定になり、丸2日間、夜通し鳴きつづけたという。
さて、その時浩美さんは?
「私は家で寝ていたんです」
それもそのはず、浩美さんは6月22日に次女の葵ちゃんを出産したばかり。とても牛の引っ越しを手伝える状態ではなかった。乳搾りに復帰したのは新しい方式に牛たちが慣れ、乳量が安定してきた昨年末頃からだ。「妊娠中だったこともあって建築中の牛舎もあまり見にいかなかったし、機械は苦手だし、みんなお父さんと透さんに任せっきりで……。私はちっともバリバリの経営者じゃない」と恐縮気味の浩美さんだが、透さんがこのシステムを考えるとき、大きな基準となったのは「女房一人でも1ヵ月は大丈夫」なことだったという。飼料や水は、あらかじめセッティングしておけば自動的に出てくる。ふだんは2人で行っている搾乳作業も、時間はかかるが1人でも大丈夫。牛の状態や乳量、帳簿づけはパソコンで楽になった。何かの事情で勝雄さんや透さんが数日家を開けたとしても、家事や育児をこなしながら、浩美さん一人で十分対応できる。「バリバリ」じやなくともそこまでのシステムを作ろうと思えば、今はできる時代なのだから、作ってしまったのだ。
ただし問題が残っていないわけではない。新システムを導入したために、労力が格段に少なくてすむかわりに設備償却コストは俄然増える。
北海道で透さんが体験した酪農が飼料の大半を自給していたのに比べ、那須の酪農は土地が少ない分、購入飼料の割合がどうしても高くなる。「那須の酪農はラクだよ。北海道じゃ、夏場は乳を搾って牧草刈って、夕方搾ってまた畑に出る。睡眠時間が3~4時間だった。自給飼料が少ない分、労力を牛に注げる」
渡追家の場合、購入飼料は約9割。経営的に軌道に乗せるには、まだまだ頭数と1頭当たりの乳量を増やしていかなければならない。目下、「あと 20頭。1日2tが目標。あと3年でそこまで持っていかないと。今が正念場だ」(勝雄さん)「1回に50L出す牛もいれば、20Lに満たないのもいる。いい牛増やして安定させたい」(透さん)、「いつか、小さくていいから牛乳を使ったお菓子のお店を出せたらいいなあ」(浩美さん)と、それぞれの夢を語る。個体管理システムが入ったので、平均の人乳水準を上げていくのも容易になる。那須は首都圏から押し寄せる観光客が多い土地柄。浩美さんの夢も商業的にも十分成功する見通しはある。それぞれの夢を抱いて、一致団結。この“正念場”をみんなで協力して切り抜いていこうという思いは一緒だ。
さて、浩美さんと透さんに別々の質問を投げかけてみた。浩美さんには「酪農以外の仕事をしてみようと思ったことはないのか?」。答えは「ない」。透さんには「もし、全国の牧場を転々としても、思うような所が見つからなかったらどうしたか」。「酪農が無理なら、独立開業して商売でも始めたと思う」。そしてその理由は「人に使われるのではなく、自分で何かをやりたい。やればやっただけ得るものがある」という意見は一致していた。浩美さんは、賢明に酪農を続ける両親の姿から、透さんは自分から飛び込んだ農場で実地の酪農に触れるうちに、そんな思いを獲得したのだろう。
「オヤジや浩美にも、早くコンピュータの操作を覚えて欲しいんだけどなあ……もしかすると、娘のゆずはの方が早いかも」と、透さん。そんな2人を両親に持つ長女のゆずはちゃんは、まだ小学校1年生。今はパソコンの画面を前にしてゲームやワープロに興じているが、その端末の向こう側には「女一人でも1ヵ月大丈夫」なシステムが繋がっている。一家の期待に、十分応えてくれそうな気配だ。
さて、その時浩美さんは?
「私は家で寝ていたんです」
それもそのはず、浩美さんは6月22日に次女の葵ちゃんを出産したばかり。とても牛の引っ越しを手伝える状態ではなかった。乳搾りに復帰したのは新しい方式に牛たちが慣れ、乳量が安定してきた昨年末頃からだ。「妊娠中だったこともあって建築中の牛舎もあまり見にいかなかったし、機械は苦手だし、みんなお父さんと透さんに任せっきりで……。私はちっともバリバリの経営者じゃない」と恐縮気味の浩美さんだが、透さんがこのシステムを考えるとき、大きな基準となったのは「女房一人でも1ヵ月は大丈夫」なことだったという。飼料や水は、あらかじめセッティングしておけば自動的に出てくる。ふだんは2人で行っている搾乳作業も、時間はかかるが1人でも大丈夫。牛の状態や乳量、帳簿づけはパソコンで楽になった。何かの事情で勝雄さんや透さんが数日家を開けたとしても、家事や育児をこなしながら、浩美さん一人で十分対応できる。「バリバリ」じやなくともそこまでのシステムを作ろうと思えば、今はできる時代なのだから、作ってしまったのだ。
ただし問題が残っていないわけではない。新システムを導入したために、労力が格段に少なくてすむかわりに設備償却コストは俄然増える。
北海道で透さんが体験した酪農が飼料の大半を自給していたのに比べ、那須の酪農は土地が少ない分、購入飼料の割合がどうしても高くなる。「那須の酪農はラクだよ。北海道じゃ、夏場は乳を搾って牧草刈って、夕方搾ってまた畑に出る。睡眠時間が3~4時間だった。自給飼料が少ない分、労力を牛に注げる」
渡追家の場合、購入飼料は約9割。経営的に軌道に乗せるには、まだまだ頭数と1頭当たりの乳量を増やしていかなければならない。目下、「あと 20頭。1日2tが目標。あと3年でそこまで持っていかないと。今が正念場だ」(勝雄さん)「1回に50L出す牛もいれば、20Lに満たないのもいる。いい牛増やして安定させたい」(透さん)、「いつか、小さくていいから牛乳を使ったお菓子のお店を出せたらいいなあ」(浩美さん)と、それぞれの夢を語る。個体管理システムが入ったので、平均の人乳水準を上げていくのも容易になる。那須は首都圏から押し寄せる観光客が多い土地柄。浩美さんの夢も商業的にも十分成功する見通しはある。それぞれの夢を抱いて、一致団結。この“正念場”をみんなで協力して切り抜いていこうという思いは一緒だ。
さて、浩美さんと透さんに別々の質問を投げかけてみた。浩美さんには「酪農以外の仕事をしてみようと思ったことはないのか?」。答えは「ない」。透さんには「もし、全国の牧場を転々としても、思うような所が見つからなかったらどうしたか」。「酪農が無理なら、独立開業して商売でも始めたと思う」。そしてその理由は「人に使われるのではなく、自分で何かをやりたい。やればやっただけ得るものがある」という意見は一致していた。浩美さんは、賢明に酪農を続ける両親の姿から、透さんは自分から飛び込んだ農場で実地の酪農に触れるうちに、そんな思いを獲得したのだろう。
「オヤジや浩美にも、早くコンピュータの操作を覚えて欲しいんだけどなあ……もしかすると、娘のゆずはの方が早いかも」と、透さん。そんな2人を両親に持つ長女のゆずはちゃんは、まだ小学校1年生。今はパソコンの画面を前にしてゲームやワープロに興じているが、その端末の向こう側には「女一人でも1ヵ月大丈夫」なシステムが繋がっている。一家の期待に、十分応えてくれそうな気配だ。
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