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江刺の稲

変わるべきは自分自身なのだ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第19回 1996年10月01日

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 東北地方の野菜産地の20代の青年と話していた。彼は嘆いた。「個人出荷に走る人も、共選で品質を上げることに熱心でない人も、自分のことしか考えていない」自分の農協の集荷管理体制では能力のある農家から組合を離れていってしまう。それが産地としての評価を下げることにつながっているのだけど、農協はその対策が打てないまま手をこまねいている。そして組合員のほとんどは今までと違うことをすることに消極的だというのだ。彼は、いかにも誠実さを感じさせる青年だった。その人柄も含めて農協や行政の期待を背負わされているような人だ。そんな彼にその場に同席した人が話かけた。
 東北地方の野菜産地の20代の青年と話していた。彼は嘆いた。

 「個人出荷に走る人も、共選で品質を上げることに熱心でない人も、自分のことしか考えていない」

 自分の農協の集荷管理体制では能力のある農家から組合を離れていってしまう。それが産地としての評価を下げることにつながっているのだけど、農協はその対策が打てないまま手をこまねいている。そして組合員のほとんどは今までと違うことをすることに消極的だというのだ。

 彼は、いかにも誠実さを感じさせる青年だった。その人柄も含めて農協や行政の期待を背負わされているような人だ。

 そんな彼にその場に同席した人が話かけた。

 「それで君はどうするつもりなんだ。ただぼやいているだけか。それで村の中で周りの人達より上手な経営ができる篤農家でいることだけで満足なのか。それでは君自身が世の中に取り残されてしまうぞ。自分から働きかけるのか、それとも世の中の変化に翻弄されていくのか」

 その人は、北海道の野菜生産者で外食業と提携している経営者だ。その栽培技術や経営能力を伝え聞いて外食業者が訪ねてきて契約出荷が始まったという人だ。その人はさらに話を続ける。

 「どこにもしょうもない奴はいるもんさ。俺の村にこんな奴もいたよ。誰も奴のことなんか信用しちゃいないんだが。でもそんな奴に限って人のいうことなんか屁とも思わないし、口ばっかりは一人前のゴウツクだから手に追えなかった。だけど、結局は自滅していったな。最初は威勢のよいことをいってある流通と提携したんだが、そこは農協の共選みたいに甘くはない。作物って正直だし、目先の損得だけで動いていたんじゃ取引先の助けも得られない。単に売値が高いなんて程度で新しい売先を求めたのでは相手に見抜かれるのは時間の問題だったのだな。世間はそんなこと許してはくれない。そんな奴のいうこと真に受けて取り引きした業者も馬鹿だよな。奴の爺さんはビートの台車に石を入れて秤にかけて量目をごまかすような人たったそうで血は争えない。そんな奴に限って、流通業者が生産者の都合を無視するなんて人のせいにするんだ。だけどな、奴の手前勝手さと、より高い位置を求めようとはせず身を寄せ合って誰かを悪者にしている方が楽だと思っている村の根性とは、同じものの裏表なんだということを覚えておけよ。皆がどうこう、誰がどうこうじゃないんだ。自分がどうするかなんだよ。そうしない限り、いつまでたっても同じボヤキを吐いてることになるよ。農協の管理体制がおかしければ君が直せばよい。組織が大きければそのメリ。トもある。それができないなら自分でやればよいだけだ。信頼のできる取引先に出会う努力をする。村や農業界だけの理屈ではなく、世の中の常識を知るためにもっと他所の人の話を聞くのだ。どちらにしても君白身が村から飛び出なきゃだめだぞ」

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