ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

Opinion

残留農薬ポジティブリスト制は国内農家の危機

  • 科学ジャーナリスト 松永和紀
  • 2005年05月01日
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
食品中の残留農薬を規制する制度が2006年5月、大きく変わります。ポジティブリスト制が始まるのです。国内農家にとっては大問題。ところが、制度改正のきっかけが中国産野菜の農薬残留だったためか、多くの農家が「問題になるのは輸入品だけ」と思い込んでいます。いえいえ、あなた自身に降り掛かってくる重大事なのです。
 食品中の残留農薬を規制する制度が2006年5月、大きく変わります。ポジティブリスト制が始まるのです。国内農家にとっては大問題。ところが、制度改正のきっかけが中国産野菜の農薬残留だったためか、多くの農家が「問題になるのは輸入品だけ」と思い込んでいます。いえいえ、あなた自身に降り掛かってくる重大事なのです。

 残留農薬に関する現在の制度はネガティブリスト制です。規制するものだけをリストアップする仕組みで、現在は244農薬と約130の農作物の組み合わせの中から約9000の組み合わせについて、残留基準が定められています。基準をオーバーする農作物が取り締まりの対象。基準のない農薬は「野放し」と言われていました。

 これに代わるポジティブリスト制は、世界で使われる農薬の大部分(約700種類)について、農作物に残留してよい量(基準)を定めてリスト化。基準超えや、リストにない農薬が残留する農作物の生産や輸入、販売を禁止します。消費者団体などは「食の安全が確保される」と歓迎しています。

 現在、厚労省が制度の細部を検討していますが、とてつもない難作業です。なにせ、700の農薬×130の農作物、つまり9万あまりの基準を決めなければなりません。それには、農薬の毒性を調べたり栽培試験を行ったり、とさまざまな実験データが必要です。でも、試験結果の解析を待っていては、法的に定められた2006年の開始に間に合わないのです。

 そこで、厚生労働省は試験データが足りないものについては、暫定的な基準を設けることにしました。国際機関であるFAO/WHO合同食品規格委員会や諸外国などの基準を採用するのです。

 このあたりの基準の決め方は非常に複雑なので省略しますが、ポイントは、厚労省が「国民の健康保護を最優先とする」と宣言していること。生産現場の事情は考慮されないまま、科学的根拠に乏しい過度に厳しい基準案が検討されているように見えます。

 その結果、農水省などが今、もっとも心配しているのが農薬のドリフトです。ドリフトとは、農薬を散布した時に周囲に飛散してしまうこと。適用外の作物にかかってしまう場合があります。

 農薬の残留基準を定める場合、登録適用のある農作物については高めに設定される一方、適用外の農作物の基準は抑えられるのが常です。今回のポジティブリスト制では、多くの農薬で適用外の農作物の残留基準として0.01ppmが採用されようとしています。

 0.01ppmといきなり聞かされてもピンとこないと思いますが、農作物1gに農薬がわずか0.01μg残っている濃度です。隣の畑の農薬が飛んできてかかれば、あっという間に突破してしまうのです。

 例えば、おなじみの農薬、プロシミドンの大豆での基準案は2ppm。しかし、適用外である枝豆の基準案は0.01ppmです。もし、大豆の横に枝豆を植えていて、大豆にプロシミドンを散布した時に枝豆にかかったことに気付かずに出荷して検査で調べられれば、おそらく「アウト」。最悪の場合、廃棄処分を迫られる可能性があります。

 農水省などは、欧米に比べて狭く猫の額とも思える農地で多品目を栽培する国内農家の実情を厚労省に訴えています。しかし、同省に応じる気配はなく、今夏の終わりには残留基準も事実上決まる雲行きです。

 それまでに、パブリックコメントなど農家が意見を出す機会もまだ残っています。意見を表明すると共に、周辺の農家と話し合って農薬の種類や散布時期を決めるなどのドリフト防止策を早急に取ってほしいのです。

関連記事

powered by weblio