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枝梗がずっと生きているからおいしい米ができる
関 結局、西南暖地の稲作の課題もその点なのではないかと思います。寒冷地のコシヒカリに匹敵する或いはそれ以上の食味のコシヒカリは作ることができても、多収量と両立させることが難しいんだろうと思います。ほかの暖地稲作に取り組んでいる方の話を聞いても、年によって食味・収量ともに出来・不出来があって、その原因が解明されていない様子なんです。井原さんの稲作では、出穂後55~60日経ってから刈り取るそうですが、その様な話は聞いたことがありません。その辺りに良食味・多収量の安定的な稲作の鍵があるように思うのですが。
井原 それは、肥料を入れていないからなんです。穂肥を入れないから、枝梗が枯れない。枝梗が生きたままでいられるから澱粉の転流が続き、おいしいお米ができるんです。枝梗が枯れた米がまずいんです。カリ過剰の米がなぜまずいかというと枝梗が枯れあがるからなんです。カリが少しづつ効いてくるなら、その間にマグネシウムが蓄積される。そして、適度なマグ・カリ比となり、おいしいお米となるんです。ですから8俵取りというのは、単に収量の数値としての意味ではなく、きれいな色で熟れあがるような、アッサリとした米作りという意味なんです。
関 今の稲作体系に組み込まれている中干しは、元肥、穂肥などを通じて絶対的な施肥量が過剰となってしまっていることに起因して必要となる作業なのでしょう。そうすると、最初から穂肥をやらないで中干しもしないほうが、稲はストレスのかからない円滑な育ち方をすることになり、良い穂をつけるのも当然ということになりますね。それと、ここの土壌は縦浸透が強く粘性が弱い、物理性としては畑としての機能に優れているようですね。それは、酸化還元電位の値があまり大きなマイナス値になっていなかったことからも窺えます。背後にある岩山の風化物が堆積してできた土壌なのだと思います。
井原 畑に近い還元状態にあるのは、浅耕しているからだと思います。浅耕した方が、根が耕盤を突き破って下層に流亡した微量要素などを吸収しやすいのです。
関 寒冷地と暖地との稲作の違いは、温度の違いによるところが大きいとお考えですか。温度が低ければ、有機物の分解が鈍く地力チッソが弱い。それを補うために肥料が比較的多めに必要なのでしょうか。
井原 温度と言っても、夏は北陸のほうが温度が高かったりする。西南暖地と寒冷地といっても、温度に明確な違いがあるのは冬の間だけです。特に両者が気候的に大きく違ケ点は、冬に湿潤状態にあるか、乾燥状態にあるかということだと思います。例えば地温を考えても、北国は冬の間は表面を雪に覆われているので、地温は割と高いんです。逆に、この辺りの冬は乾燥しますから、地温は低いんです。土中温度は北国のほうが高いとすれば、寒冷地と暖地との土壌条件の違いは、やはり乾湿の問題なのではないかと思っています。ただ、北国では春先に雪が融けて田圃がドロドロになりますから、冬の間に作られた硝酸が流亡してしまい、地力が落ちるのでしょう。
関 プラウなどによる水田深耕についてはどのようにお考えですか。場所によって水田深耕の功罪があるようなのですが。
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関祐二 セキユウジ
農業コンサルタント
1953年静岡県生まれ。東京農業大学において実践的な土壌学にふれる。75年より農業を営む。営農を続ける中、実際の農業の現場において土壌・肥料の知識がいかに不足しているかを知り、民間にも実践的な農業技術を伝播すべく、84年より土壌・肥料を中心とした農業コンサルタントを始める。 〒421-0411静岡県牧之原市坂口92 電話番号0548-29-0215
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