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【Opinion】
感激・感動をつくりだす商人・サービス
- (株)オフィス2020新社 チーフエディター 桑原聡子
- 2005年05月01日
お客さまの“不の解消”こそがサービスの命
全国各地を取材するなかで、感動・感激する人やサービスに出会うことは多い。
大分県米水津村に「やまろ渡邉」という干物製造・小売販売業を営む職商人がいる。それが、私が″ 正ちゃんと慕う、渡邉正太郎さんである。「お客さまの不――不自由・不便・不愉快・不足……などの解消業」を掲げる正ちゃんの商売は、干物にまつわるマイナスのイメージを払拭し、進化し続けている。通販を積極的に活用しているため、全国津々浦々、そのファン客は多い。
最近の若い奥さんたちは、魚をさばけない・さばかない傾向がある。「だったら一夜干しにして生に近い干物で売ったら、奥さんたちは手を汚して魚をさばかなくても済む」という素直な発想でのモノ作りや、また「魚を焼く道具を持っていない人が多いし、干物もフライパンで焼けたら便利だよね」ということから様々なクッキング提案、さらには「ムニエルもいいしサラダでも……」と干物の新しい食べ方やコトを提案し、ファン客を作っている。
とにかく正ちゃんの想像力とアイディアにはわくわくさせられる。「どうせ干物を食べる人は少ない」と気持ちの上で縮小均衡に陥るのではなく、「だったら食べてもらえるような提案をしようよ!」と前向きで暗いことは言わない。商人として生きることに誇りを感じ、楽しんでいる。一見古いと思われる商品でも付加するサービスによってこんなに活き活きと楽しい食材になるんだ、そう実感することばかりである。
人的販売だけでなく、使う側のお客にたった提案などに「このサービスに出会えたから大満足」――そう思える店や人、モノと遭遇するとき「生きてるっていいことだなあ」と思う。大げさではない。当たり前だが一人では生きられない世の中。殺伐としたニュースが流れる今にあって、心をほぐし、優しい気持ちにしてくれるのは人の業。サービスとはその店のポリシーであり商人の生き方の表れでもある。
顧客満足の七割はそのプロセスで占められる
もちろん顧客接点の店頭で「人の力」がかつてないほど大きなものになっている。「脳が満足を感じるのは七割が過程(プロセス)の快適さ・楽しさ・心地よさに対してで、結果の満足は三割なんだそうですよ」――これは脳科学の権威・松本玄先生(故人)がおっしゃっていたことである。
あるイタリアンレストランで大感激したことがある。二人でピザを食べていたとき。結構大き目だったこともあり、飽きてきて、「ちょっと多かったかねぇ」と、食べるスピードが遅くなった。すると店の人がさっと寄ってきて「コショウをかけるとまたお味も変わって新鮮ですよ」という。早速お願いしたところ、特大のペッパーミルを手に、目の前でガリガリと新鮮な粒のコショウをひいてくれる。ふわっと鼻腔を刺激的な香りがかすめる。フロアスタッフの心配りで香りとその空間を楽しみ、舌でも楽しむことができた。最後まで飽きさせることのない食事のワンシーンを提供してくれたその姿勢に「さすがプロ!」と信頼を高めた。
このように脳が感じる最終的な満足の七割をプロセスが担っていることを考えると、そのプロセスをどう楽しませるか、どう快適に過ごしてもらうか。どうわくわくしてもらうかについて、もう一度見直してみることが大事だと思う。
サービスは、お客から「要求される」ものではなく、お客が「期待する」もので、その店に対する期待感なのだ。そこにこそ人の魅力が活き、人間業たる商売の醍醐味・面白みがあるのだと思う。
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桑原聡子 クワバラサトコ
(株)オフィス2020新社
チーフエディター
1975年栃木県生まれ。日本女子大卒、明治学院大大学院修了。学生時代から流通専門誌で取材・執筆を開始。規模を問わず全国の繁盛店を訪ね、様々な事例から「人づくり」「売り場づくり」「お客づくり」の考え方を紹介する。「別冊THE 店長会議」編集長。著書に『商売は心理学』『売れる店の店長はどこか違うのか?』(共著)など。
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