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【Opinion】
再生期すチリの稲作に日本の技術を
- コメ産業コンサルタント 田牧一郎
- 2005年04月01日
南米チリの稲作を見る機会を得た。チリは南北に細長い国で、季節の多様性から各地で多くの作物が生産されている。特に乾燥地で日格差が大きい気象条件から、糖度の高い果物を、薬剤散布を最小限に抑え、低コストで生産できる。人件費の低さもあって世界中に果物を輸出している国でもある。また、小麦やトウモロコシも利益を出せる作物である。
その中でコメ業界は非常に大変な位置にある。農務省の数人の官僚と話しをする時間もあり、興味深い状況を聞いた。「10年程前まではチリの稲作は利益が出ないため、稲作をやめ、利益の出る作物を生産するように役所として推進していた。しかし、良い作物が見つからなかった」
そこで現在は方針を転換し、別な角度からチリの稲作振興を計ろうとしている。「伝統的にチリにある作物の生産や加工に新技術を導入してイノベーションの実現を図り、強い産業にする」考えで、具体的には、新しい種子の導入、新しい栽培技術の導入と、乾燥や精米技術の革新により製品の品質を向上させ、新しい市場に販売する。
生産者や精米業者はどのように反応しているのか? 生産者曰く「我々の生産したコメは不当に安くしか売れない」「流通業者がタイの輸入米と同じ価格でしか購入してくれない」「やっと生産しているが、他にもうかる作物がない」―さらに、機械や肥料・農薬は毎年値段が上がり、経営は大変とのコメントである。
チリのイネ栽培技術水準は非常に低い。肥料や除草剤はメーカーや販売店が持ってくるが、何をどのように使用すれば効果があるのか、よく知らないで使用していると感じた。日本の稲作農家には常識とも思える基本技術が理解されていない。精米工場の設備は30年から40年前の機械を修理しながら使っている。品質向上の努力は見えるが、道具が伴わず、製品は良いとは言えない。
強いコメ産業とは、輸入米に競争しながら成長することであり、さらに輸出産業として海外市場で競争できる産業である。この点については、少なくともチリの役所とコメ業界の一部は、私と同じ認識だ。そして、その実現のためには種子・栽培・機械・乾燥・精米・販売とコメに関するすべてに改善対策、イノベーションが必要なのだ。
それは可能なのか。内部の関係者にとっては生活がかかった重要問題である。私もかつて全く同じ議論をしていたことを思い出した。
しかし私はここでは外部の人間なので、冷静な状況分析が可能だ。日本のコメ生産技術を体験し、カリフォルニアのコメ産業界にいる人間として、技術とマーケティングの両方についてコメントできる。現状から設定された目標達成に向かって、何が必要なのか、その結果どうなるのか見当がつく。
今回私は、同国のコメ産業全体に新しい技術を早急に導入することが第一歩であるとアドバイスした。どこから導入するか│第一候補は日本の稲作農家である。私は仕事柄、世界各地の稲作を見る機会があり、基本技術からマーケティングまで現場で勉強してきた経験がある。そこから言えることは、日本のコメに関する技術開発力は世界のトップレベルだということだ。試験場や機械・農薬メーカー、そしてコメ生産者自身の技術対応力は世界一である。
この技術は世界に通用する貴重な生産者の能力である。日本稲作が輸出できるのは、日本で生産したコメもあるが、生産のためのノウハウも立派に輸出可能である。
今、南米のコメ産業界は、日本の稲作技術を必要としている。日本のコメ生産者の出番である。
基本技術がないチリの稲作
その中でコメ業界は非常に大変な位置にある。農務省の数人の官僚と話しをする時間もあり、興味深い状況を聞いた。「10年程前まではチリの稲作は利益が出ないため、稲作をやめ、利益の出る作物を生産するように役所として推進していた。しかし、良い作物が見つからなかった」
そこで現在は方針を転換し、別な角度からチリの稲作振興を計ろうとしている。「伝統的にチリにある作物の生産や加工に新技術を導入してイノベーションの実現を図り、強い産業にする」考えで、具体的には、新しい種子の導入、新しい栽培技術の導入と、乾燥や精米技術の革新により製品の品質を向上させ、新しい市場に販売する。
生産者や精米業者はどのように反応しているのか? 生産者曰く「我々の生産したコメは不当に安くしか売れない」「流通業者がタイの輸入米と同じ価格でしか購入してくれない」「やっと生産しているが、他にもうかる作物がない」―さらに、機械や肥料・農薬は毎年値段が上がり、経営は大変とのコメントである。
チリのイネ栽培技術水準は非常に低い。肥料や除草剤はメーカーや販売店が持ってくるが、何をどのように使用すれば効果があるのか、よく知らないで使用していると感じた。日本の稲作農家には常識とも思える基本技術が理解されていない。精米工場の設備は30年から40年前の機械を修理しながら使っている。品質向上の努力は見えるが、道具が伴わず、製品は良いとは言えない。
世界最高の技術を輸出する時
強いコメ産業とは、輸入米に競争しながら成長することであり、さらに輸出産業として海外市場で競争できる産業である。この点については、少なくともチリの役所とコメ業界の一部は、私と同じ認識だ。そして、その実現のためには種子・栽培・機械・乾燥・精米・販売とコメに関するすべてに改善対策、イノベーションが必要なのだ。
それは可能なのか。内部の関係者にとっては生活がかかった重要問題である。私もかつて全く同じ議論をしていたことを思い出した。
しかし私はここでは外部の人間なので、冷静な状況分析が可能だ。日本のコメ生産技術を体験し、カリフォルニアのコメ産業界にいる人間として、技術とマーケティングの両方についてコメントできる。現状から設定された目標達成に向かって、何が必要なのか、その結果どうなるのか見当がつく。
今回私は、同国のコメ産業全体に新しい技術を早急に導入することが第一歩であるとアドバイスした。どこから導入するか│第一候補は日本の稲作農家である。私は仕事柄、世界各地の稲作を見る機会があり、基本技術からマーケティングまで現場で勉強してきた経験がある。そこから言えることは、日本のコメに関する技術開発力は世界のトップレベルだということだ。試験場や機械・農薬メーカー、そしてコメ生産者自身の技術対応力は世界一である。
この技術は世界に通用する貴重な生産者の能力である。日本稲作が輸出できるのは、日本で生産したコメもあるが、生産のためのノウハウも立派に輸出可能である。
今、南米のコメ産業界は、日本の稲作技術を必要としている。日本のコメ生産者の出番である。
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田牧一郎 タマキイチロウ
コメ産業コンサルタント
1952年福島県生まれ。74年、米カリフォルニア州の国府田農場で1年間実習後、帰国、大規模稲作経営に取り組む。89年、カリフォルニアに渡米、コメ作りを開始する。同時に始めた精米会社で「田牧米」を作り、米国内にとどまらず世界中の良質米市場にブランドを定着させた。現在は、コメを生産しながら、コメ産業コンサルタントとして活躍する。
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