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コメを作り、売るために
私の今年の夏はとりわけ忙しかったというのが実感です。これから収穫期に入りもう一段忙しくなります。それは今年の春から意欲あるカリフォルニアのコメ生産者数人とコシヒカリや新品種の栽培を始めたからです。
これらの稲の生育状況の記録と栽培の方法を勉強するため、毎週カリフォルニアのコメ産地を西の端から東の端までそして少々北の方まで走り回り(一日平均約200kmの走行)たくさんの田んぼに足を入れていました。たぶんカリフォルニアのコメ生産者の中で一番長い時間、田んぼに入って稲を触っていたのは私ではないかと思います。
田んぼの周りの道路を走り全体の状況を見て、田んぼに入ってば葉の色や背丈、根の状態など、生育段階に応じた観察をしてきました。その甲斐があってか新品種を初めて栽培する生産者の田んぼも目標を超える収量が予想されています。収穫後は乾燥され品質そして食味のテストをして今後の対応を検討します。いくつかの心配は残っていますが、初年度にしては満足のできる成果が期待できそうです。
コメを栽培する生産者は良いものを作るところまでの心配で良いわけですが、販売を担当するところは「売れてみないと来年どうするかは何とも言えない」と慎重な姿勢をとります。それも当然の事ですし私白身これらのコメがどのように評価されるのか、知らなければならないと思っております。
生産者として作ったものが売れたら終わりではありません。
売れてからが次の対策を立てるために必要な情報がたくさんあります。
この事を日本の稲作農家は疎かにしているように思えてなりません。新食糧法になり、売る自由も保証されている中で「売る相手、買っていただく相手のことを意識してコメを作る」という当たり前なことを敢えて言葉にしなければならないという状態は、稲作が産業としてまだ未熟であることを示しているのだと思われます。
前述の農業機械の効率利用の考え方は、大区画な稲作を志向していこうとする稲作にとっては重要なポイントになることは確かです。しかし、「技術」や「機械の効率化」は経営イノベーションを構成する一つのアイテムでしかないのです。大切なことは「経営」とか「マネージメント」とは何かを意識することであり、使い古された言葉ではありますが「経営感覚」を持つかどうかが最大の課題なのではないでしょうか。それを知ろうとしない経営者は辞めざるを得ないという実態のほうが実は健全なのではないか? と、農家の廃業があっても珍しくないアメリカの農産業を見ていて感じています。
例えば、自分達が作ったコメがいつ、誰が、どこで、なぜ、どのように食べたのか? いくらで売り買いがされたのか? ビジネスとしてコメを売ったのであれば、買ったほうも売った方も互いに満足していたのかどうか? 私達の新しいコメヘの取り組みも「経営感覚」的にやっていて疑問はたくさん出てきます。
この疑問への答えが、来年にどれだけどのように作るのかを決める重要な手がかりになります。買っていただいたお客様の所へは、是非訪ねて話をしてみたいと考えています。
この冬はまた忙しくなりそうです。
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田牧一郎 タマキイチロウ
コメ産業コンサルタント
1952年福島県生まれ。74年、米カリフォルニア州の国府田農場で1年間実習後、帰国、大規模稲作経営に取り組む。89年、カリフォルニアに渡米、コメ作りを開始する。同時に始めた精米会社で「田牧米」を作り、米国内にとどまらず世界中の良質米市場にブランドを定着させた。現在は、コメを生産しながら、コメ産業コンサルタントとして活躍する。
田牧一郎のカリフォルニア稲作便り
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