記事閲覧
【江刺の稲】
北海道遺産に選定された「土の館」に寄せて
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第106回 2004年12月01日
- この記事をPDFで読む
今から13年前に北海道上富良野町にスガノ農機1が開設した「土の館」が北海道遺産に認定された(本号「農・業界」参照)。
北海道遺産は北海道が世界に誇り後世に残すべき遺産として97年に当時の堀知事によって提唱された事業で、2001年に最初の25件が認定された。さらに今年10月、第2回の認定遺産27件の一つとして「土の館」が選ばれたものである。
北海道遺産には北海道の観光開発という側面もあるが、先人たちが北海道開発に取り組んだ勇気と努力を今の時代に再確認し、道民の誇りを鼓舞しようという意図がある。
「土の館」はまさに北海道農民の苦闘の歴史と勇気を伝える優れた記念碑である。その意味で、「土の館」が北海道遺産に認定されたことにお祝いを申し上げるとともに、一人でも多くの人々が「土の館」をお訪ねになることをお勧めする。
筆者は本誌創刊号で「土の館」に展示された巨大土層見本(土壌モノリス)を題材にして「土を信じる者」という創刊の辞を書いた。
そのモノリスは「土の館」のある上富良野町の水田圃場の土層を採取したものだ。それは単に地学あるいは土壌学的意義ばかりでなく、そこに生きた人々、たび重なる災害を乗越えて農業を続けて来た人々の歴史を示す土層見本であるからだ。
上富良野町は入植30年後の1926年(大正15年)2月24日、十勝岳の噴火で大災害に見舞われた。溶岩が雪を溶かした泥流が144人の命を奪い、800haの畑と500haの水田を泥流の下に埋めた。浅い所でも30b、深い場所では2.5mもの深さに及んだ。
開拓の志を挫かれ、農地を捨てて故郷に帰る人々、あるいは新たな土地に移って行く人々も少なくなかった。しかし、開拓の意志を継ぎ、再び未来を求めてモッコで山から土を運び、泥流に埋まった田畑に客土する人々がいた。そして、彼らは耕し続け、土を作り続けた。
「土の館」に展示されたモノリスとは、太古からの自然が作り出した土層とともに、そんな人々の勇気と意志の歴史を記録しているのである。
「土の館」は“世界のプラウと土の博物館”と銘打たれ、さまざまなトラクタやプラウが日本国内のどの農業展示館より充実して展示されている。また、日本全国から集めた土層見本は農業にかかわる者にとっては多くの示唆を与えるであろう。
また、蒸気機関のトラクタをはじめとしたトラクタやプラウの展示も、マニアたちを満足させるものであろう。それを見るとき、今では想像もつかない大きな投資をしてトラクタを導入した先人たちの農業経営に賭けた夢や勇気を同時に想像してみてはいかがかと思う。
本誌の原点の一つは、あのモノリスに示された人々の意志と勇気であると言ってもよい。土を信じて戻し続け、作り続ける勇気。筆者が考える「土」とは足元の耕す土であるとともに、家族であり、仲間であり、取引先であり、そして何よりも顧客なのである。
誰も飢えてはいない時代。否応もなく国境を越えて世界がつながる時代――泥流に上富良野の農地が埋め尽くされた時代と現代とでは大きな違いもある。しかし、そんな現代の我々であればこそ、「土の館」から学ぶ変わりようもない理念を失うべきではない。
北海道遺産は北海道が世界に誇り後世に残すべき遺産として97年に当時の堀知事によって提唱された事業で、2001年に最初の25件が認定された。さらに今年10月、第2回の認定遺産27件の一つとして「土の館」が選ばれたものである。
北海道遺産には北海道の観光開発という側面もあるが、先人たちが北海道開発に取り組んだ勇気と努力を今の時代に再確認し、道民の誇りを鼓舞しようという意図がある。
「土の館」はまさに北海道農民の苦闘の歴史と勇気を伝える優れた記念碑である。その意味で、「土の館」が北海道遺産に認定されたことにお祝いを申し上げるとともに、一人でも多くの人々が「土の館」をお訪ねになることをお勧めする。
筆者は本誌創刊号で「土の館」に展示された巨大土層見本(土壌モノリス)を題材にして「土を信じる者」という創刊の辞を書いた。
そのモノリスは「土の館」のある上富良野町の水田圃場の土層を採取したものだ。それは単に地学あるいは土壌学的意義ばかりでなく、そこに生きた人々、たび重なる災害を乗越えて農業を続けて来た人々の歴史を示す土層見本であるからだ。
上富良野町は入植30年後の1926年(大正15年)2月24日、十勝岳の噴火で大災害に見舞われた。溶岩が雪を溶かした泥流が144人の命を奪い、800haの畑と500haの水田を泥流の下に埋めた。浅い所でも30b、深い場所では2.5mもの深さに及んだ。
開拓の志を挫かれ、農地を捨てて故郷に帰る人々、あるいは新たな土地に移って行く人々も少なくなかった。しかし、開拓の意志を継ぎ、再び未来を求めてモッコで山から土を運び、泥流に埋まった田畑に客土する人々がいた。そして、彼らは耕し続け、土を作り続けた。
「土の館」に展示されたモノリスとは、太古からの自然が作り出した土層とともに、そんな人々の勇気と意志の歴史を記録しているのである。
「土の館」は“世界のプラウと土の博物館”と銘打たれ、さまざまなトラクタやプラウが日本国内のどの農業展示館より充実して展示されている。また、日本全国から集めた土層見本は農業にかかわる者にとっては多くの示唆を与えるであろう。
また、蒸気機関のトラクタをはじめとしたトラクタやプラウの展示も、マニアたちを満足させるものであろう。それを見るとき、今では想像もつかない大きな投資をしてトラクタを導入した先人たちの農業経営に賭けた夢や勇気を同時に想像してみてはいかがかと思う。
本誌の原点の一つは、あのモノリスに示された人々の意志と勇気であると言ってもよい。土を信じて戻し続け、作り続ける勇気。筆者が考える「土」とは足元の耕す土であるとともに、家族であり、仲間であり、取引先であり、そして何よりも顧客なのである。
誰も飢えてはいない時代。否応もなく国境を越えて世界がつながる時代――泥流に上富良野の農地が埋め尽くされた時代と現代とでは大きな違いもある。しかし、そんな現代の我々であればこそ、「土の館」から学ぶ変わりようもない理念を失うべきではない。
会員の方はここからログイン

昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
WHAT'S NEW
- 年末年始休業のお知らせ
- (2020/12/17)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2020/08/07)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2019/12/12)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2018/12/25)
- 展示会に伴う一部業務休業のお知らせ
- (2017/10/04)
