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自動販売機ビジネスルポ

ねらいは宣伝効果にあり

農産物用自動販売機の導入については、小誌4号の注目機・資材のコーナーでも紹介したように、無人販売での盗難やイタズラの防止効果のみならず、規格外商品とされた野菜などを有効活用できるなどのメリットがある。今回は、自販機販売を実践されている方の例を紹介し、自販機ビジネスの有効活用について考えてみたい。
主にトマトを販売している江森さんの場合


 埼玉県幸手市の江森さんは、自宅近くのハウス約800坪(養液栽培約300坪・土耕栽培約500坪)のすぐ隣に自動販売機を設置している。ハウスで栽培・収穫したトマトを三菱農機(株)の「朝どりくん」で、販売しているのである。

 江森さんのお宅を訪ねると、自宅近くにあるハウスの辺りからラジオの音が聞こえてきた。音のする方へ行ってみると、江森さんが堆肥の作業をしていた。後で話を聞くと、自宅周辺の5棟あるハウスのどのハウスにいるのか、自分の所在を来訪者に知らせるために、作業しているところでは必ずラジオを鳴らすのだそうだ。そんな細かい配慮にも江森さんの農業経営に対する取り組み方が感じられた。「自販機による販売は、主に広告よ旦伝効果を考えて行っている。だから、5年償却ぐらいの販売ペースで十分だと思っています」と話してくれたが、自販機導入のもともとの動機を尋ねると「以前に自販機ナシの無人販売を行っていたときは精神的にまいってしまったから」と言う。つまり、無人販売の時に何度も盗難に遭遇し、自分が精魂込めて作り、自信をもって販売している商品(トマト)が盗まれることの精神的苦痛には耐えられなかった、ということである。「安全でおいしいものを作り、販売している」という自負を持ちながら、自分の理想通りの作品(作物)を作るために、毎年試行錯誤を繰り返している、そんな営農者ならではの精神的な痛みである。

 残念ながら、今回訪ねた時には、自販機は稼働していなかったが、それは江森さんの年間計画の中に予め設けられている無収穫期(育成・管理期)のためである。例年、12月頃から7月頃にトマトの出荷・販売を行っている。江森さん夫妻と、収穫期のパート2名の体制での営農に合わせた年間計画といえる。それでも江森さんは、年間3,000時間は働くという。

 自販機販売の収支面について尋ねると、

「宣伝目的でやってますから、そんなに儲けていないですよ」と控えめな返答ながらも、

「トマト販売の最盛期を迎える6月頃には、1日10回転はしますよ」と、そっと教えてくれた。ちなみに、江森さんが使用している自販機は、12ボックスタイプのもので、1ボックス200円の単価で販売している(設置台数は1台である)。また、自販機販売のメリットとして

「一つのボックスには、M玉のA品を2個入れたり、B品を3個入れたりして販売している。B品C品は、市場では半値ぐらいに値が下がるんですが、そういうものは、個数を増やすなどして、有効的に販売することができるんですよ」ということを挙げていた。

 今回取材した我々編集部は、江森さんの営農活動における自販機販売によるメリットは、単なる商品の宣伝効果や収穫物の有効利用ということだけではない、と感じた。その論拠は、話の随所に出てくる自販機を媒体としたコミュニケーションである。

 江森さんの自販機の前には写真(1)のような看板が設けられている。実にシンプルであり、控えめでさえある。これでは、看板を設けた意図が十分に実現できているとは考えにくい。ところが実は、別の看板が作ってあった。それは、お客さんでもある看板屋の人が、もともと設けてあったシンプルな看板を見て、「この看板じゃダメですよ」と率直に意見を進言して、かつ作ってしまったものとのことである。そして今では、自販機稼働時には、自販機が面している道路沿いに幟を立てるとのことである。それは、自販機から遠く離れた団地のベランダからでも見えるように、との考えがあってのことである。

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