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女化通信

耕作放棄地での経営実験

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第7回 1996年12月01日

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昭和5年生まれの高松求氏は、茨城県牛久市女化町という畑地帯に住む複合経営農家であるご自分ではすで引退した“経営者”だという同氏だがその経営体験から生まれるさまざまなアイデアや経営への考え方は聞く者の規模や作目を問わず、示唆に富む
「女化通信」のタイトルで同氏のその時々の仕事と本誌とも共同で進める経営実験の模様を紹介していきたい
小麦作で始める耕作放棄地の改良


 首都圏といわず、今や日本全国に耕作放棄地が広がっている。それも条件の整った畑が草ホウボウの荒れ地となって放棄されている。

 自分の畑が草だらけになっていることに何も感じない農家なんていないだろう。多くは、高齢化して農業に取り組める状態ではなく、また、経済的にもその必要が無くなっている場合も少なくない。美観だけでなく火事や犯罪の原因になるからと、草刈りが条令化している自治体もあり、それが負担になってる地主さんも多い。

 農業経営に可能性を感じる人であれば、それを放っておく手はない。本誌でたびたび指摘しているように、こうした耕作放棄地は府県での「畑作的経営」を進めるための願ってもない条件なのである。識者は農地の流動がないと声高にいうが、少なくとも関東地方であれば、借地料はタダでも畑の借地に困ることはないと話す人も多い。農地の貸し手がいないのではなく、頼むに足る経営者が少ないだけなのである。もっとも、自分の畑が土壌障害で作れなくなったからと、人の畑を借りて荒して回るような者もいないわけでなく、それでは貸し手も寄ってこない。彼は荒す畑だけでなく、やがては彼自身も自滅していくのだ。

 地主にとってみれば、バブルの幻想も 吹き飛んで、地代を取るより以前に、自分の畑が優良農地として維持管理してくれる人になら無償で貸しても、世間の目を気にして草だらけにしてるより、ずっと気楽なわけだ。


荒れ地に麦を播く

 さて、そんな草ホウボウの耕作放棄地は、高松さんの住む牛久市にも沢山ある。高松さんは、以前にも隣家の放棄していた畑を陸稲から始めて「回復」させたことがある。それについては本誌第4号の経営者ルポを始め、その後の展開も何度か取り上げてきている。

 前回、夏作の陸稲で始めた畑地の回復では、やはり雑草の発生に苦労した。その経験から今回は冬作の小麦で始める耕作放棄地の回復法に取り組んでみた。

 牛久市の農業委員会の取り決めでは、畑地の借地料は10a当たり1万2000円ということになっている。高松さんの場合も地主さんは地代にこだわっていない。むしろ高松さんが「無料で借りたのでは誰もが認める経営実験にはならないから」と、3年間で10万円の借地料を払う形で63・38aの畑を借りることにしたものだ。

 高松さんは、小麦の後の夏作には緑肥を播き、さらに草を減らして土壌改良を進める予定だ。

 夏作にはもっと「儲かる」作物を作ればよいのにと、筆者らは進言したが高松さんの答えは違っていた。

 「最初から黒字になる経営計画しか考えられないということが、その人の考える企ての限界かもしれませんよ。これまで草ホウボウに荒した畑を回復させようというのですよ。儲けを出すことよりいかに草を減らせるかを考えるのが畑作経営の基本だと思いますよ。仮に最初の利益が小さかったとしても、それでも損は無いということを示すのが、この経営実験の目的でしょう。利益の回収は早いに越したことはないけど、それにこだわりすぎるために未来が作れないのでは意味がない。そんな儲けちゃいけませんよ。それでもちゃんと収支は合せましょうよ。だからこれからの数字もキッチリ出していきましょう。そして、3年経ってみたら若い野菜生産者が思い切って野菜作りにとり組めるような畑ができますよ。私だって損してまでするつもりはないから」

 以後の報告では、この畑を「上柏田の畑」と呼び、逐次の報告をするつもりだ。

 さて、「上柏田の畑」は、我々が行った雑な計測ではあるが、約64a。登記簿通りだった。ただし、図の通り畑は菱形で、また変形の出っ張りがあるために作業にはやや不便もある(図1)。圃場の乾き具合を見ると、南側(図の右側)に行くにつれて排水が悪いようだ。土壌は関東ロームの黒土に一部心土の赤上が混じった状態である。

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