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【エクセレント農協探訪記】
愛知県・東知多農協
- 土門剛
- 第12回 1996年12月01日
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農政審報告を先取りした企業的農協
9月20日付け毎日新聞『苦悩する農協』シリーズは、「愛知県の東知多農協のように常勤理事全員が職員出身という例も現れている」と報じていた。筆者が知る限り、常勤理事全員が職員などの実務経験者であるのは、恐らく全国で東知多農協だけであろう。農協界ではそれだけ珍しいことなのだ。
かねがね農協理事の能力には大きな疑問符がつけられていた。農家出身の理事は、財務書類はもちろんのこと、貸出の際に審査の対象となる土地の登記簿も満足に読めない。
それでいて億の単位の貸出を決済したりしてきたのである。最近は農協合併で貯金量が1000億円を超すマンモス農協が各地で誕生している。考えれば恐ろしいことである。
8月に出た農政審報告でも、農協理事に実務経験者を登用することを求められていた。組合員農家の中から選ばれた理事では、ライバル金融機関と対等に渡り合って競争できないと判断したのである。ライバル金融機関と対等に渡り合って競争するためには、それ相応の専門知識と経験が必要であると言っているのだ。
農政審報告を先取り
東知多農協の取り組みは、この農政審報告を先取りしたものである。 筆者は、この記事を読んですぐに東知多農協にアポイントを申し入れた。筆者の名前を聞けば、取材は断られるかもしれないと秘かに危惧していた。何しろ、「農協が倒産する日」や「農協大破産」の著者である。農各地の農協中央会からは、「講師に呼んではいけない」あるいは「読んではいけない著書」などブラックリストの最上位にランクされている。筆者の名前を聞いただけで取材拒否の返事がくるかもしれないと心配していたのだ。取材OKの返事がすぐきた。インタビューの開口一番、深谷泰造組合長より、「いつも著書を読ませてもらってます」との有り難い言葉も頂戴した。むろん深谷組合長は農家出身である。その物腰から、農協組合長というよりは、どこか中堅の信用金庫の理事長というのが初対面の第一印象だった。胸にはロータリー・クラブのバッチも控え目に光っていた。
典型的な信用事業中心の都市型農協である。農協のパンフレットでは、95年度実績ベースで正准合員1万2408人に対し、准組合員は8425人と7割近くを占める。貯金量は1581億円(95年度)ある。これに対し営農購買取扱額はわずか13億円。販売取扱額は19億円しかない。もはや農協というよりは農地所有者の協同組合金融機関としての位置づけがピッタリだ。
深谷組合長に、「常勤理事に学識経験者を登用することのメリッ卜はありますか…」と質問を向けたところ、
「学経理事はやはり違いますね。経営というごく当たり前の視点から物事を判断してくれるんですよ。普通の農家出身の理事さんは、政治的な判断、それも政治的な駆け引きとかは得意のようですが、経営的な判断はできませんね」というストレートな答えが戻ってきた。理事制度の改革はこれだけではなかった。市町村議会議員との兼職を禁止してしまった。深谷組合長は、農協手帳をポケットから取り出してきた。そこには、「市町議会議員の兼職は原則として避け、組合運営に専念します」という一項がはっきりと明文化されていた。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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