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【耕すということ】
土層・土壌改良雑感(2)
- 農学博士 村井信仁
- 第20回 1996年12月01日
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中国黒龍江省の白漿土の改良
中国政府からの依頼
中国政府は、三江平原の土地の生産性を高めるために土層・土壌改良を計画しているが、この中に白漿上が86万haもあるのだそうである。北海道は土層・土壌改良技術が進歩しており、是非にその技術をということで、国際協力事業団を通じ技術協力を要請された。
白漿上は粘土質の土壌であるが、表層は風化し、雑草や潅木が生えるなどして有機物が多い。層の厚い場所は開墾されて広大な農地になっている。ここで何か問題かと言えば、第二層の白漿上の原土、これが不透水層を形成し、湿害と旱魅害をもたらしているのだそうある。透排水性を改善すれば、高位生産が望めるので、その改良機械を設計して欲しいと依頼された。
中国側は「いろんな実験の結果、第三層の澱積層を第二層の白漿土に1対1の割合で混合すると40~50%増収するので、そのような機械を作って欲しい、ただし、化学性が劣悪であるので、現在の作土には一切混合しないように」と条件づけられた。
土を扱った経験のあるものなら誰でも分かっていることであるが、土壌の性状は複雑であり、季節でも微妙に変化するものである。単純に作土を耕すといっても、それなりの難しさを伴うものである。単純そうに見える現在のプラウにも、改良に改良を重ねた歴史がある。それなのに正体の知れない下層土を1対1に混合するなどとてもできないことであり、ましてや一切作土に混合させないなど不可能である。丁重にお断りすることにした。
機械は、決して万能ではなく、条件が設定されて能力を発揮するものである。機械を知っている人は過大評価することはなく、常に条件設定について考える。土壌の場合、水などと異なり、性状の変化は烈しい。また、同じように見えても地域によって大きく異なるのが普通である。俗に上物と言って、土壌に接触する機械を設計する時には、条件が多様なだけに土壌を知っているベテランを配し、慎重を期するものである。上物と呼ばれるポンプや力ッタなどとは同一にはならないと心得ています。
土壌に関する機械化の難しさを知らない人と接触すると、後に大変なことになってしまう。ここは、逃げるに然かずとした。ところが再三の申し入れである。仕方なく第二層と第三層を混合することはなんとかできそうである。しかし、1対1の内容が分からない。どの位の大きさの土塊の混合であるのか、第三層の一部が第二層に部分混合する程度であればできそうである、などと何回かやりとりが始まった。
下層土を作土に一切混合させないことは不可能であると連絡すると、中国側が作土を削いでおくなどして混合しないようにするなどと言ってくる始末である。それだけの実力があるのなら技術協力を要請することはあるまい。やはり、君子危うきに近寄らず、であると関係者一同腹を決めることにした。が、そんなことで怯む中国側ではない。国際協力事業団を通じ、何とかして欲しいとなり、結局、無下に断ることもできず、さすれば、土壌を調査してからとなった。
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村井信仁
農学博士
1932年福島県生まれ。55年帯広畜産大学卒。山田トンボ農機(株)、北農機(株)を経て、67年道立中央農業試験場農業機械科長、71年道立十勝農業試験場農業機械科長、85年道立中央農業試験場農業機械部長。89年(社)北海道農業機械工業会専務理事、2000年退任。現在、村井農場経営。著書に『耕うん機械と土作りの科学』など。
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