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そういえば米国では、寿司を握る板前に手術の時に使う手袋の使用を義務づけている。何もここまでしなくてもと思うのだが、とかく欧米では病原菌の方が、農薬より真剣に対策を講じていると思わせるに十分なエピソードである。
筆者からこの話を聞いた、岡山県で葉ネギを栽培するI氏は、さっそく集荷施設内での菌対策を講じた。まず集荷施設内にアルコール消毒液を設置。圃場から収穫してきた葉ネギを調製する作業前には、作業台をアルコールで拭き、作業員には薬用石鹸での手洗い励行を義務付けた。
大分県でオオバを栽培する農家U氏は、集出荷施設の入り口にエアーカーテンを取り付けている。U氏はこんなことを言っていた。
「生で食べることが多いオオバを“農産物”という感覚でとらえてはダメですね。あくまで“食品”という感覚で安全対策を講じないとね」
I氏やU氏のような意識を全国の農業者はどれだけ持っているだろうか。
土門の切抜帳
【1.農協界のカルロス・ゴーン】
6月5日付け胆江日日新聞の1面トップは、岩手のJA岩手ふるさと農協が「念願の累積赤字解消」と報じた。この記事を送ってくれた知人は、「農協界にもカルロス・ゴーンが現れたよ」と興奮気味だ。同紙は、この農協の本店がある水沢市で発行されている。
「農協界のカルロス・ゴーン」とは、門脇功組合長のことだ。徹底した経費節減で農協再建を果たし、同紙も「JA岩手ふるさとは03年単年度決算で単年度黒字を計上、02年度繰越欠損金を含む累積赤字を解消したことが明らかになった。合併時(1998年)から赤字解消策を進めてきており、役員報酬の減額や職員昇給率の抑止など徹底した経費削減策が実った。02年度決算での繰越欠損金の圧縮が黒字転化につながった」と伝えている。
門脇組合長の経歴が実にユニークだ。養豚経営で大失敗したが、系統からの餌購入・技術サポートのまずさが原因と総括して以降、骨の髄まで系統に対する恨みつらみが染み渡り、その思いから組合長就任以来、なるべく全農からモノを買わない、モノを売らない、近付けないの「3ない」運動を経営方針に掲げた。
例えば、ライスセンター修理は、系統指定業者は排除し、民間業者からも見積もりをとり、全農と商系を同列線上で競わせるようにした。役員報酬も限界まで下げている。今の組合長の報酬は、農協の係長以下。部下には「俺よりいい給料取ってんだから、もっと考えてから上げてこい」と指示。労働組合も組合長の再建にかける意欲に賛同し、昨年の冬の賞与は「0.22ヶ月」で了承。労組も経営再建を全面支援した。
わが知人曰く「全農岩手県本部からは嫌われていますが、それ以外の外部・内部評価はまさにカルロス・ゴーンとしてヒーロー扱いです」と。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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