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【農・業界】
「低タンパク」「腎臓病患者向け」うたえず、春陽等“表示”めぐり動揺広がる
- 編集部
- 2004年06月01日
縦割り行政で対応に遅れ 求められる生産者の知識と販売戦略
新形質米「春陽」と「LGCソフト」をめぐり、生産・流通段階で動揺が生じている。昨年施行された健康増進法で食品表示のルールが厳格化され、「低タンパク米」「腎臓病患者向け」などの表示ができなくなったためだ。品種開発に取り組んできた農水省側と同法を所管する厚生労働省の連携不足を指摘する声は強い。関係機関では急きょ対策を講じているが、生産者にも「縦割り行政」に振り回されない知識と戦略が求められている。
春陽等は、グルテリンなどの易消化性タンパク質の含有量が一般品種の約60%で、人工透析に移る前の腎臓病患者など、タンパク質の摂取制限を必要とする人たちの常食米として開発された。
しかし新たに制定された健康増進法の許可基準では、病人用の「特別用途食品」として低タンパクと表示できるの含有量を減らしたもの。このため2品種の産みの親である農業・生物系特定産業技術研究機構は、今年1月、生産者・流通業者を集め、特性の表示を自粛するよう求めた。
同機構が種籾の増殖を種苗会社に許諾した時点で、念頭においていたのは、増進法よりも表示基準が緩やかな栄養改善法だった。ところが2品種の本格的な栽培が始まった03年5月、同法は廃止され、増進法が施行、さらに一部改正の後、現在のルールが示された。「栄養改善法に従い、グルテリン含有量を明記すれば販売可能」と見込んでいた機構は、この展開に追いつけず、2品種は、その特性や品種名をコメ袋やホームページに明記できなくなってしまった。
農水省は今年産から、春陽は5県(宮城・秋田・新潟・石川・宮崎)、LGCソフトについては3県(島根・広島るため、これらの産地ではとりあえず品種名の表示は可能になる。
また、厚生労働省に医学・栄養学的データを提出し、個別評価型の特別用途食品として表示許可を得る方法も残されており、「この状態を放置するつもりはない」という同機構の全面協力を得て、コメ流通業者3社が6月中にも申請する運びだという。
昨年グループで春陽3000俵を生産した熊本県のコメ生産者、堤公博さんは、「今、機構が表示問題をクリアできなければ、日本の新形質米に明日はないし、本来、コメに関する表示基準は、農水主導で作るべき」と話す。また、春陽を販売する島原ライスセンター(長崎県)の木下朗さんは、「腎臓病患者に関する情報は厚労省の方が詳しいはず。必要な人にスムーズに届くよう、もっと2省が連携すべきだし、販売面でもバックアップしてほしい」と語る。
機構では、「種苗会社を通じて販売先を確保してから栽培するようにと指導してきた」(総合企画調整部)と説明する。だが、実際には売り先を考えずに栽培を始め、在庫を抱える生産者がいる。その一方で、口コミやインターネットを通じて、腎臓病患者のグループと知り合い、販売している生産者や流通業者もいて、利用者から「家族で同じコメが食べられてうれしい」との声が寄せられているという。
春陽などが特別用途食品として認可されれば、後続の品種も同じ道をたどる可能性はある。却下された場合も、その後の行政の動向からは目が離せない。
生産者の側も、正確な情報を入手し、ターゲットを絞った販売戦略を練って、栽培に臨む必要がある。
【三好かやの】
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