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【江刺の稲】
「耕作放棄地なら貸してやるヨ」
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第124回 2006年06月01日
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本誌では「農業は食べる者のためにある」と言ってきた。それは象徴的な表現であり「農業は消費者のためにある」と言う方が正しい。それは「農業は農家や農業関係者のためだけにあるのではない」ということを逆説的に申し上げているだけなのだが、そもそも、本誌がそれをことさらの主張とせねばならないことこそ、農業界の異常さなのである。
前月号の記事をまとめるにあたって、耕作放棄地に関する「特定法人貸付事業」(農業特区)についての記述を読んで、農業界あるいは農水省の能天気さ(まさにこの表現が適切だと思っている)をあらためて感じた。
「株式会社あるいは企業の農業参入」という話題で、様々な議論がされたが、「耕作放棄地や耕作放棄されるおそれのある農地が相当程度あるところで、市町村が農業経営の基盤強化のために作成する基本構想で定めた区域(注として、「リースできる農地は耕作放棄地に限られません」と断り書きはあるが)」を対象に、とりあえず農業生産法人以外の法人であっても農地の賃借ができるようになった。
これでも、大変な難産の末に実現した企業の農業参入の道である。
現代の社会を見回してみれば、農業・農村には、産業としての多様な可能性とビジネスチャンスが存在する。であればこそ、本誌は農業界にある敗北主義を捨てるべきだと申し上げているのだ。だからこそ、多くの企業も農業に食指を動かしているのだ。
しかし、利権にすがり、現状に安住する方が得する農業の仕組みであるかぎり、日本中に宝の山になり得る耕作放棄が発生する一方で、農業コストが下がらないのではないか?社会主義日本農業の現実的経営者である農水省や現場管理者たる農協に経営能力がないゆえに、右往左往する農業の姿があるのではないか?
さらに、日本の農業が現在の市場社会の中で有効な役割を果し、農業・農村の活性化と農村での就業機会を増やしていくためにも、海外との競争にも打ち勝っていくためにも、企業の経営ノウハウや資本が必要とされているのではないのか?それも農業にとっては一刻の猶予もない緊急のテーマとして。
それにしても、なぜ農業界は企業の農業参入を忌避しようとするのだろうか。そもそも、農業生産ということに限定すれば、周辺事業には期待があったとしても、農業生産そのものへの参入は、大企業にはリターンが小さくリスクが大きすぎる。
にもかかわらず、企業が生産事業に関わろうとする(関わらざるを得ない)理由こそを農業人は考えるべきだ。
農産物の需要企業は、顧客の要望に応えようとすればこそ、品質管理や安定供給そしてコストの低減を考える、しかし、そのマーケットニーズを事業パートナーとしての農業界に求めても、それを理解しそれに応えようとする農業者があまりにも少ないからである。であればこそ、企業は自らリスクを背負ってでも生産に関与し、顧客の期待に応えようとしているのである。本来やりたくもないことを、やっているのだ。
「耕作放棄地なら貸してやるヨ」などという態度でいる農業界とは、助け舟を出している者に対して失礼なのではなかろうか。同時にそれは、自らの安楽死のために、日本農業の未来を犠牲にしようとしていることに他ならないのである。これを能天気というのは間違いだろうか。
前月号の記事をまとめるにあたって、耕作放棄地に関する「特定法人貸付事業」(農業特区)についての記述を読んで、農業界あるいは農水省の能天気さ(まさにこの表現が適切だと思っている)をあらためて感じた。
「株式会社あるいは企業の農業参入」という話題で、様々な議論がされたが、「耕作放棄地や耕作放棄されるおそれのある農地が相当程度あるところで、市町村が農業経営の基盤強化のために作成する基本構想で定めた区域(注として、「リースできる農地は耕作放棄地に限られません」と断り書きはあるが)」を対象に、とりあえず農業生産法人以外の法人であっても農地の賃借ができるようになった。
これでも、大変な難産の末に実現した企業の農業参入の道である。
現代の社会を見回してみれば、農業・農村には、産業としての多様な可能性とビジネスチャンスが存在する。であればこそ、本誌は農業界にある敗北主義を捨てるべきだと申し上げているのだ。だからこそ、多くの企業も農業に食指を動かしているのだ。
しかし、利権にすがり、現状に安住する方が得する農業の仕組みであるかぎり、日本中に宝の山になり得る耕作放棄が発生する一方で、農業コストが下がらないのではないか?社会主義日本農業の現実的経営者である農水省や現場管理者たる農協に経営能力がないゆえに、右往左往する農業の姿があるのではないか?
さらに、日本の農業が現在の市場社会の中で有効な役割を果し、農業・農村の活性化と農村での就業機会を増やしていくためにも、海外との競争にも打ち勝っていくためにも、企業の経営ノウハウや資本が必要とされているのではないのか?それも農業にとっては一刻の猶予もない緊急のテーマとして。
それにしても、なぜ農業界は企業の農業参入を忌避しようとするのだろうか。そもそも、農業生産ということに限定すれば、周辺事業には期待があったとしても、農業生産そのものへの参入は、大企業にはリターンが小さくリスクが大きすぎる。
にもかかわらず、企業が生産事業に関わろうとする(関わらざるを得ない)理由こそを農業人は考えるべきだ。
農産物の需要企業は、顧客の要望に応えようとすればこそ、品質管理や安定供給そしてコストの低減を考える、しかし、そのマーケットニーズを事業パートナーとしての農業界に求めても、それを理解しそれに応えようとする農業者があまりにも少ないからである。であればこそ、企業は自らリスクを背負ってでも生産に関与し、顧客の期待に応えようとしているのである。本来やりたくもないことを、やっているのだ。
「耕作放棄地なら貸してやるヨ」などという態度でいる農業界とは、助け舟を出している者に対して失礼なのではなかろうか。同時にそれは、自らの安楽死のために、日本農業の未来を犠牲にしようとしていることに他ならないのである。これを能天気というのは間違いだろうか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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