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Opinion

「下向き」農業から「横向き」「上向き」農業へ

  • (有)茨城白菜栽培組合 開発・営業担当 唐澤秀
  • 2007年08月01日
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「下向き」「ネガティブ」「マイナス思考」昨今どれも人の考え方、生き方としてタブーとされる言葉である。私は学校卒業後農業者を目指し、山梨の清里にある農業法人に入った。そこは現在私が勤務する法人の契約農家で、夏の間のハクサイ、レタスを中心に30haの畑を耕している。
 山梨県清里といえば、標高1300m、言わずと知れた人気の避暑地であり、北に八ヶ岳、南に富士山、西に南アルプスを望む最高のロケーションである。宮沢賢治の言う「四方はかがやく風景画」の世界である。そんな天国みたいなところで農業ができると思ってワクワクしていたのを今でも鮮明に憶えている。農業を志す初心者が夢見るノンストレス、ハッピーで優雅な農園ライフである。

 実際は違った。早朝2時半に起床してから夜8時まで作業に追われる。収穫、定植、マルチ張り、除草、防除、追肥云々と休憩は午前午後の15分、昼飯の1時間のみ。収穫の半年間、休みはない。

 ここで「下向き」である。なんと先述した四方に囲まれたはずの絶景を拝む暇がないほど忙しいのである。驚くことに永遠としてその作業が「下向き」なのである。長時間腰を曲げ地面と対峙し続けるのは身体的にも精神的にも相当ヘタレるものである。加えてこれが休みもなく半年180日も続くと思うと、なお気が滅入る。ちなみに私がいた間で仲間のアルバイトは20人近く入れ替わってしまった。

 私が経営者の方に問いたいのは、作業自体は下向きで仕方ないとしても、従業員の顔を、下向きではなくて上や横に向けさせているかどうかである。私の言う横向きとは上手くコミュニケーションをとりつつ、楽しみながら1日1日仕事ができるということと、井の中の蛙になりがちな農業者にならぬよう外に出て同業他社の人、異業種の人、友人、恋人たちと話し、刺激し合い情報を交換する場に行く機会を持つことである。「口を動かす前に手を動かせ」は、一般によく言われる。仕事の能率を上げて、コストを下げろという意味で使っていると思うのだが、私からすればこれを言われると断然仕事がやりたくなくなり、忠誠心もなくなる。「コスト削減唱える前に1円でも高く商品を販売してこい」と思ってしまう。優れた経営者であれば、その仕事(作業)に意義と価値を見出し、それを伝え、従業員のモチベーションを上げ、楽しみながらかつ効率的に仕事が出来る環境を作るであろう。また法人2代目や従業員の社外の付き合いを重要視していないトップの方たちも少なくない。仕事が忙しいという理由で半年に1回の集まりにも出られない環境であったりする。ビジネスにおいては農業界がなおざりにしてきた横の繋がりがとても大切で、若いうちからそういった場に赴き人脈、情報、刺激、モチベーションを得る必要がある。

 最後に、上向きの話。「上」とはまさに夢と希望である。その従業員自身が夢や希望を持てて、それが実現できそうだと信じられる環境があればどんな下向きの作業であっても耐えられるし、いずれそれが肥やしとなり成長していく。そこに生きがい、楽しみも見出せる。

「最近の若者は夢が無い、元気が無い、言わないとやらない」という先輩方がいらっしゃる。私から言わせれば、誰がその環境を作っているかを省みずに、涸れた暗く深い井戸の底に下向きの作業をするように閉じ込めておきながら「上を見ろ、前に進め!」と言ったところで、若者は光の届かない見えない壁にぶつかるだけである。そこに楽しみや歓び、ワクワクは一切ない。 作物は、環境を整えてさえあげれば、自ずから根を張り、横に葉を広げ、雄々しく天に向かって伸びていくものである。そうしてできた実りに、喜びも得られるのではないか。

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