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旅の曲者

拷問の館のこと

ドイツ・ワールドカップも終了した。ただし、その幕切れはジダンの頭突きによる退場という、いささか後味の悪いものだった。事の真相は、本誌が出るころには明らかになっているだろうが、あの場面を見たときに、ふと思い出したのは、南ドイツの古都ローテンブルクで訪ねたある博物館のことだった。
 ローテンブルクは、ドイツ有数の観光コースであるロマンチック街道のハイライトというべき町である。中世のたたずまいを色濃く残したこの町は周囲を古い城壁に囲まれ、中には木製の骨組みが露出した古風な赤屋根の家並みが続いている。散策しているだけでも中世の世界にさまよい込んだような気分が味わえるのだが、なにより興味深かったのが、古い修道会の建物を改造して造られたという中世犯罪博物館だった。おとぎの国のような平和な町の雰囲気とは対照的に、その内部には中世のドイツで実際に使用されていた、あらゆる拷問器具がびっしり並べられているのである。

 なぜ、そんな物騒な博物館がジダンの頭突きと関係あるのか。その前に、この博物館について簡単に説明したい。拷問道具のコレクションといっても、なにも猟奇的な趣味で作られた博物館ではない。犯罪博物館という名のとおり、さまざまな具体的史料によって、中世ドイツにおける法と刑罰の歴史を明らかにしようとした、きわめて学問的な博物館なのである。とはいえ、そこに並べられた斬首用の斧や刀、座面や背もたれ一面に鋲を打った審問用椅子、「鉄の処女」と呼ばれる女性をかたどった人型棺、頭蓋骨を砕くための特殊な万力などを見ていると、よくもまあ、人を痛めつけるために、これほど豊かな想像力が発揮されるものだとあきれる。

 たとえば中世拷問具の横綱とも言える「鉄の処女」は、中に容疑者を入れて扉を閉めると、内側に打たれた鉄の針が体中を貫くという仕掛けになっている。しかも、針の位置は体格に合わせて変えることができた。また、扉を閉めると、まず命にかかわらない腕や脚が貫かれ、そのあとで腹や胸や局部へと針が及んでゆくという、じつに残虐な工夫がなされていた。

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