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農業経営者ルポ

後継者よ創業者たれ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第22回 1997年04月01日

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 しかし、その人々の気持ちにも無理からぬものはある。

 番組ディレクターも照沼さんたちの意見を好意的に取上げてくれる約束をしていたが、そのプランは実を結ばなかった。


人に問われるからでなく


 しかし、今回の事件、そして照沼さんたちの活動を通じてクラブ員の中の共感は強まった。仮に作っている作物や役割が少しずつ違っていたとしても、クラブの仲間と作り上げて行く共感に、照沼さんは東海村農業の可能性を感じている。でも若い農家の間にも古い世代の論理を一歩も出ない人々も少なくない。それでも、農業者クラブの中には素直に「お客様」と言える仲間がいる。それこそが農家としての意識改革の第一歩なのだ。

 こんな事もあった。

 東海村には照沼商店以外にも個人で干しイモを販売する農家もいる。照沼さんもそれを皆に勧めてきた。そんな仲間と話し合って、昨年12月のPL法施行に合わせて、保健所の人を呼んで勉強会を開いた。

 もし万が一でも干しイモにカビが生えたり、買ったお客さんから安全に係わるクレームが付いた場合、それに対処しなければならなくなるからだ。

 しかし、若い農家の中からもまだ「売っちゃったものは知らないよ」「パッケージに自分の名前を入れて、そのクレームが直接自分の所に来たら困るな」といったレベルの話が出てくる。

 照沼さんは、

 「名前を入れているからこそ、美味しいと思って下さったお客様から次のオーダーが来るではないか。そこにわれわれの可能性があるんじゃないか」と自分の名前で売ることを勧める。

 クラブ員で小売をする人はすでに保健所の指導を受け、そのための保険にも加入している。でも、照沼さんに干しイモを納品している農家は、照沼さんに納めさえすれば責任は問われない。しかし、それでは自ら小売することによる利益を失うことにもなるのである。だから、照沼さんは自ら保険に入って小売による販売利益を出すことを勧めるのだ。

 すると、その様子を見ていた保健所の人が照沼さんにこう耳打ちした。

 「照沼さん、こんなことお父さんに話してあるんですか。農家に自分で小売りをしなさいと勧めているようなものではないですか。それは照沼さんの家が損をすることじゃないですか」と。

 照沼さんはそれでもよいと思っている。そんなこと以上に干しイモの生産環境が改善されていかなければ、干しイモそのものの社会的評価が下がってしまう時代がくることを予感しているからだ。

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