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特集

「顧客に聞く農業マーケティング」
自分はお客様のために何ができるのか?

顧客に教えられた農業の奥深さ

 ピーク時は自社直送と提携業者の配送を合せて約800軒に達した顧客が、ここ2年ほどで減少に転じた。規模拡大が顧客の声によるものなら、縮小もまた顧客の声から始まった。

 「農業の振興を図りたい県の要望もあって、実習生を受け入れたんですよ。いちばん多いときは18名いました。私も人手を増やして規模を拡大していく予定でした。実際、これまで農地を広げれば、それに伴なって不思議なくらいお客さんも増えていましたから」

 ところが、林さんの思惑は大きく外れてしまった。多くの実習生たちが畑に出て作業をするようになり、生産性や品質が大幅に落ちてしまったのだ。

 「契約してくれている顧客がトータルで150軒くらい減ってしまった。直接的な原因は、品質が低下したので立て直しのために作物を減らしたことです。そのため春と夏から秋にかけての時期に、同じ野菜が1ヶ月くらいつづいてしまった。それで飽きたお客さんが逃げてしまったんです」

 しかし、より本質的な問題は、なぜ品質が低下したかということだ。林さんは肥料を自製している。「同じ土、同じ種に同じ肥料ですよ。基本的なことをアドバイスすれば、だれがやっても同じ野菜がつくれると確信していた。だからこそ人も増やしたのに、お客さんの反応は非常に厳しかった・・・」

 配達に行った数十軒の得意先で、次のような会話が交わされた。

「林さん、先週の野菜は林さんがつくったの?」

「そうですよ。実際に畑で収穫しているのは若い人たちだけど・・・」

「でも味が落ちてるよ」

「・・・・・・」

 思わぬ反応に林さんは苦悩した。しかし、たしかに食べてみると味は自分の手で収穫した野菜より劣っていることが明らかだった。「人」を除けば、すべての条件が等しい。科学的な理論では説明のつかない「味」のちがいを、顧客によって知らされた。

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