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特集

「顧客に聞く農業マーケティング」
自分はお客様のために何ができるのか?

 「だけど、仕方なく辞めてもらった若い人たちを思い返して、なんとなく理由がわかるような気もする。野菜や肥料への愛情や思い入れ、これでメシを食っていくんだという切迫感。それが決定的になかったと思うんです」

 自然の創造物である作物には、同じ自然から生まれた人間という生き物の感情やら波動といったものが、深く作用しているのだろうか。

 「そうとしか考えられませんね。実習生は県の規定で生活を保証され、休日も決められた通りに与えることが前提でした。そこから問題が出てくると最初は思わなかったけど、今思えば必死に食らいついてくる姿勢がなかった」

 制度が悪いというより、制度に甘えてしまう意識に問題があったのだろう。ともかく抜本的な見直しを余儀なくされた。

 一時的に規模を縮小し、現在は品質の回復、顧客との信頼関係の再強化に向けた立て直しの最中である。

 「野菜にかぎらず、農作物は良くも悪くも、つくる人間の味が出る」。顧客を通じて再認識させられた、農業の難しさ、奥深さだった。


消費者と一緒につくる時代

 現在は林さんを含む数名体制で、原点にもどって「ゆうき農産」の味回復に取り組む。宅配主体で拡大してきた販路についても、青果市場ルートの開拓など新たな仕組みを模索中だ。

 「とにかく原点にもどって、お客さんとの信頼関係を強化していきたい」

 一方で、まったく新しい挑戦も始まっている。家庭菜園の愛好家たちを会員組織化して、畑の土壌診断や肥料の提供、管理上のアドバイスなどを行おうというもの。そして、「より美味しい野菜を自分でつくってもらいたい」という。

 みんなが自分で美味しい野菜をつくるようになったら、客が逃げてしまう心配はないのか・・・という愚問を、あえて林さんにぶつけてみた。

 「そんなことは有り得ない。むしろ消費者が自分で栽培することで有機農産物についての認識を深めれば、名ばかりの有機農産物を謳う業者が淘汰されるはず。農協で売っている有機質肥料を使って、有機野菜などと称するような安易な考え方がまかり通っているのが現状です。そういう状況を改めて、消費者との信頼関係を築くことが生産者としての重要課題ですよ」

 その先にあるのは壮大な夢だ。

 「全国各地で会員の人たちが集まって店をもち、自分たちのブランドで販売してほしい。そのために、会員数がまとまった段階で具体的な指導をしたい」

 林さんの視野には、顧客とともに切り拓く農業マーケティングの新しい一歩が、すでに描かれているようだ。

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