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【耕すということ】
部分深耕
- 農学博士 村井信仁
- 第23回 1997年06月01日
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ナガイモ栽培の機械化は如何にして実現されたか
特定の人しか食することのできなかったナガイモが日常食卓に載るようになったのは、機械化栽培技術体系が確立されたからに他ならない。ナガイモは健康食品として知られ、その需要はすっかり定着している。
ナガイモが機械化栽培されるとは、以前なら誰も考えなかったことである。トレンチャが発達したことから可能になった訳であるが、植付床造成にトレンチャを利用する発想は素晴らしい。青森県のナガイモ栽培農家とトレンチャメーカーに敬意を表するものである。
ナガイモ栽培は北海道では夕張市を中心に普及し、やがて帯広市に発展する。ここで機械化栽培技術は一段と進歩し、今日の技術体系が組み立てられる。
ナガイモはその昔、乾性型火山性土地帯などの排水性のよい軽しょう土地帯でなければならないとされてきた。それが現在では地域を拡大し、沖積土地帯はもちろんのこと、湿性型火山性土地帯でも栽培できるようになった。それは何故かと言えば、トラクタの力によるものと明言できよう。
トレンチャが小型エンジンを搭載した歩行型であった頃は、掘削深は60cmが限界であった。植付床は軟らかになっているので、井戸を掘った場合と同様に疎の状態になっているので水が集まってくる。下層の排水が悪ければ、ここで湿害が発生する。排水性のよい地域でなければナガイモは栽培できないとされたのはこのためである。
歩行型では満足できないとして、高性能のトラクタマウント型の植付床造成ロータリが開発される。高馬力であるので、深さ1mもの掘削が可能になった。ここで、あまり土地を選ばなくなってしまったのである。
つまり、現在のナガイモは改良されて大きくなっても長さは60cm程度のものである。とするなら、1mもの深さは不要と考えられるが、集まった水は下方に流れ、ナガイモの生育環境は適正水分が保たれるのである。下方40cmの掘削が排水性を良好にすることに大きく物を言っている。
下層土の多くは化学性や微生物性が劣悪であり、それ程の深耕はナガイモの生育を阻害するのではないかと考えられる。しかし、ナガイモを栽培する上では殆ど問題はない。何故かと言えば、ナガイモの根は伸びる性質があり、養分吸収根は表層30cm位迄のところにある。全層混層ではないので、深耕が影響を及ぼす程のものではない。
これも力の農業である。パワーファーミング、トラクタの力が生産性を高めると同時に栽培する地域を拡大することにつながっている。
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村井信仁
農学博士
1932年福島県生まれ。55年帯広畜産大学卒。山田トンボ農機(株)、北農機(株)を経て、67年道立中央農業試験場農業機械科長、71年道立十勝農業試験場農業機械科長、85年道立中央農業試験場農業機械部長。89年(社)北海道農業機械工業会専務理事、2000年退任。現在、村井農場経営。著書に『耕うん機械と土作りの科学』など。
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