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【読み切り】
東和町町長インタビュー
「それでも地球は回る!」
- 土門剛
- 1997年08月01日
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米の生産調整(減反)を農家の自主判断に任せる方針を打ち出した東和町の小原秀夫町長は、8月1日、自主転作の実施を断念する旨の記者発表を行った。これでこの冬から農政を揺るがしてきた東和町の自主減反問題は一応の決着をみることになった。
筆者は、その発表の6日前、小原町長にインタビューすべく東和町に飛んでいた。いずれ小原町長は自主転作の方針を撤回する。筆者は、この問題が起きた時からそう予測していた。その予想通りに事態は進展した。インタビューの冒頭、筆者は小原町長に方針撤回は何も敗北ではない。これは一歩後退二歩前進になる。こう説明しておいた。その時、こんなエピソードも紹介した。
「実は東和町内の農家の方から、この件で小生にも相談がありましてね。確か3月ぐらいのことだと思います。農家の方には、ことしは政府の方針通りに従った方がよいと伝えておきました。理由はですね、どうせ秋には大豊作になる、そして米は余る、もし政府に逆らって自主転作した場合、農水省の役人にも面子がありますから、米過剰の責任を誰かに転嫁してくるからですよ。東和町が自主転作を決めたから米が余ったんだということになりかねない。だからここは一歩下がった方が得策だと思う。逆に政府の方針に従っても米は余った。減反そのものを見直さねばならぬのではないか。秋にはこう主張もできますよ。農家の方は納得してくれたようです。でもこんなに早く予想が当たるとは思いもよりませんでした」
こんな前置きがあって小原町長との「撤回」を前提にしたインタビューは3時間にも及んだ。減反問題から日本の農政の問題まで話題も多岐にわたった。小原町長のポイントとなる部分を詳述することにした。この秋、確実に起きる米パニックを考える際の参考にして頂きたい。
土門 減反問題で一石を投じられて最後はこういう形で決着することになった。何か孤立無援の闘いのような気がしました。
小原 最初、高知県の橋本大二郎知事が先鞭をつけて、その後、バトンタッチを受けたわけではないが。減反政策の批判では二番手となりました。東和町に続く自治体があると期待していましたが、うーん、やはり補助金行政はすごいですよ。いくら正論を吐いても国に反発しきれんのです。自主転作は時代の流れだと確信しています。
土門 国との論争はどうでしたか。
小原 最初、国は法律論争を仕掛けてきました。農水省も県も、私に対して「あなたのやっているのは法令違反になる」と言ってきた。私は、「法令違反なんか何もやってませんよ」と突っぱねた。それで「どの法令に違反するのか。そんなことどこにも書いてない」と主張すると、「要綱や通達の中にありますよ」と答えてくる。その要綱や通達も拡大解釈あり曲解ありでしたね。こちらも困って、それじゃ、「その要綱や通達はどの法律の委任を受けているのか」と突っ込むと、国からは明確な答えが何も戻ってこないんんだ。これには驚きましたね。役人が作る一片の要綱や通達が、法令より上位に扱われているんです。憲法にはそんなことは書いていないでしょう。
筆者は、その発表の6日前、小原町長にインタビューすべく東和町に飛んでいた。いずれ小原町長は自主転作の方針を撤回する。筆者は、この問題が起きた時からそう予測していた。その予想通りに事態は進展した。インタビューの冒頭、筆者は小原町長に方針撤回は何も敗北ではない。これは一歩後退二歩前進になる。こう説明しておいた。その時、こんなエピソードも紹介した。
「実は東和町内の農家の方から、この件で小生にも相談がありましてね。確か3月ぐらいのことだと思います。農家の方には、ことしは政府の方針通りに従った方がよいと伝えておきました。理由はですね、どうせ秋には大豊作になる、そして米は余る、もし政府に逆らって自主転作した場合、農水省の役人にも面子がありますから、米過剰の責任を誰かに転嫁してくるからですよ。東和町が自主転作を決めたから米が余ったんだということになりかねない。だからここは一歩下がった方が得策だと思う。逆に政府の方針に従っても米は余った。減反そのものを見直さねばならぬのではないか。秋にはこう主張もできますよ。農家の方は納得してくれたようです。でもこんなに早く予想が当たるとは思いもよりませんでした」
こんな前置きがあって小原町長との「撤回」を前提にしたインタビューは3時間にも及んだ。減反問題から日本の農政の問題まで話題も多岐にわたった。小原町長のポイントとなる部分を詳述することにした。この秋、確実に起きる米パニックを考える際の参考にして頂きたい。
土門 減反問題で一石を投じられて最後はこういう形で決着することになった。何か孤立無援の闘いのような気がしました。
小原 最初、高知県の橋本大二郎知事が先鞭をつけて、その後、バトンタッチを受けたわけではないが。減反政策の批判では二番手となりました。東和町に続く自治体があると期待していましたが、うーん、やはり補助金行政はすごいですよ。いくら正論を吐いても国に反発しきれんのです。自主転作は時代の流れだと確信しています。
土門 国との論争はどうでしたか。
小原 最初、国は法律論争を仕掛けてきました。農水省も県も、私に対して「あなたのやっているのは法令違反になる」と言ってきた。私は、「法令違反なんか何もやってませんよ」と突っぱねた。それで「どの法令に違反するのか。そんなことどこにも書いてない」と主張すると、「要綱や通達の中にありますよ」と答えてくる。その要綱や通達も拡大解釈あり曲解ありでしたね。こちらも困って、それじゃ、「その要綱や通達はどの法律の委任を受けているのか」と突っ込むと、国からは明確な答えが何も戻ってこないんんだ。これには驚きましたね。役人が作る一片の要綱や通達が、法令より上位に扱われているんです。憲法にはそんなことは書いていないでしょう。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
農と食産業・トップ・インタビュー
この数年で農業・食産業を取り巻く環境は大きく変わった。“食”の信頼や海外農産物との競争など多くの課題が指摘されたことで、トレーサビリティや原産地表示、農薬使用方法などの法律が制定され、「農業は特別」という論理が通用しない時代を迎えつつあるのだ。この新たな流れの中で、農業経営者、農・食の関連業界人は何を考え、どこへ向かおうとしているのか。このシリーズでは、各分野の方々にインタビューし、日本の農業・食産業の未来にどのような展望を抱き、またそれに対してどう対応・変化しようとしているのかをうかがう。
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