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今川きくさんの決心
「豊かな暮らし、子供に良い教育を受けさせるために一生懸命働いてきたのに…」
きくさんは一瞬柔和な顔を険しくした。
「私自身もソバ打ちをしたのは今回が初めて。子供のころ母親が打っていたのを見ていたのでどうにかできた。私の娘たちはソバ打ちどころか魚を三枚におろす事さえできないし田んぼの場所だって知らない」
そして決心したように、
「倉石に帰ったら村の皆んなにアカ族の話をしたい。娘たちに料理を教える」
きくさんの言葉にアカ族と倉石の“農村交流”の意味が凝縮されている。経済至上主義で手に入れた物の豊かさの代償として、支払った心の豊かさを見つめ直す旅だった。
義幸さんとの出会い
タイ国北部の山岳民族アカ族の村への訪問を決めた晩は、いつもと変わらず山腹の牛小屋で大宴会をしていた。世話役の青年リーダー佐々木義幸さん、今川義雄・きくさん夫婦、義理の兄の今川のじいちゃん、従兄弟の役場の今川さん、そして、若手のホープの小田公征さん。
彼らと知りあったのはひょんな偶然からだ。農大最後の夏にある青年組織のリーダーの研修会に義理で参加して義幸さんと出会ったのだ。お互いにやる気なし、研修に身は入らないが酒は胃袋に入る。すっかり意気投合してしまった。
その年の夏から秋にかけて、岩手県の僻地小学校や4Hクラブを対象にスライドキャラバンを計画していた。私はアジア・アフリカ研究会という地球のあちこちで農業実習に明け暮れるサークルに所属していた。その仲間と選りすぐりの写真をスライドにして四名で僻地を巡回する話を義幸さんに話した。
「倉石まで足を伸ばせ」
の一言で早速、キャラバンに青森県倉石村が加えられた。その時にホームステイと実習を受け入れてくれたのが今川さんたちだ。スライドキャラバンを今川さんたちに見てもらい、「一度裸足の村へ連れて行ってくれ」と頼まれていた。 就職してからも出張ついでに倉石に寄っては酒を酌み交わし、そして、遂にアカ族の村に行くことが決まった。
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豊永有
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