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農業経営者ルポ

我れ、いまだ木鶏ならず

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第25回 1997年10月01日

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農地を預かる者の自負


 地主制度が批判され民主的といわれる農業政策や農民運動の思想が強調されるあまり、かつて地主や村の長たりえる自作農の「農地を預かる者」としての自負心によって支えられていたもの、そして彼らの「農村経営者」としての能力と果していた社会的役割の大きさに、我々は注目してこなかった。

 これまでの政府管理型の社会主義的農業政策の中では、農業者を「農業就業者」という「労働力」としてみなすだけで、彼らを村にいて自らの田畑や地域の風土の上に立つ、真に農業の「経営主体」たりえる者として擁護しようとはしてこなかった。耕す他になす術を知らぬ弱き者、力なく貧しき「農民」として、その救済や保護は行なっても、競争社会の中で経済的に自立することはもとより、自らの責務を自覚した誇りある道を創造し続ける農業経営者たちに充分な活躍の場が与えられてこなかった。それが現代の我が国の農業の混乱の一つの原因なのではないだろうか。

 しかし、かつての地主たちが背負ってきた精神と能力は、現代の農業経営者のなかに確実に受け継がれている。

 彼らの多くは小規模地主から土地を借りて経営する小作者の立場にいる。そして彼らは、単なる「生産者」としてだけではなく新時代の「農業経営者」として経営手腕を発揮し始めている。

 合理的な思考力を持ちつつも、ただ“良い作(一時の儲け)”を求めて土を肥やすことに専心しているだけではない。常に新たな農地を拓き美田に変えていくこと(社会的な経営基盤の整備を含めて)を己れの役割として自覚し、“作”はその結果と考えることのできる人々なのである。まさに地域社会や顧客としての消費者への啓蒙や営業を含めて未来のために土を作り、美田を作る意志、開拓の志を持ち、そしてその事業をなす者としての誇りのために生きようとしているのだ。


山田 義人さん

プロフィール
 有限会社やまだズ代表取締役。母親と後継者を含む一家4人で作る家族法人を経営。21haの稲作を中心とし、米の多元販売を心掛けると共に、山田氏個人の人柄を含めたやまだズの魅力を売る直売も手掛けている。「育み育まれ」を経営理念とし、地域の信頼も厚いものがある。

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