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自給率45%、空虚な国の皮算用
国の皮算用によると、カロリーの高い肉や小麦を食べる量が減るから、国民への供給カロリーが減ることになる。廃棄ロスが減っても同じだ。カロリーベースの食料自給率は「国民1人1日に供給されるカロリーのうち、国内生産による割合」(国産カロリー÷供給カロリー)。だから、分母の供給カロリーが小さくなる(国の目標では2588kcal→15年2480kcalの4%)。これだと国内生産供給カロリーがまったく増えなくても、2%弱も自給率が自動的に上昇する計算になる。残りの3%は、食べる量が減らないことになっている、国産肉の飼料自給率の向上や若干の野菜と豆の供給増加で達成というわけでだ。マンガのような話だが、「2015年における望ましい消費の姿」(表1)という政策で、2015年に国民一人が1年間に食べる量が2003年に比べ次のようになると大真面目に書いてある。○1脂をとりすぎると体に悪いので、国民は1年間に食べる肉の量を2.2kg減らす(豚肉11.6kg→8.8kg、鶏肉10.1kg→9.1kgと減らす一方、なぜか牛肉は6.2kg→7.7kgに増やす)○2コメや小麦などの穀物は糖質が多いので、国民は食べる量を横ばいにする(コメ03年61.9kg→15年62kg、小麦32.6kg→31kg)○3国民はカルシウムや食物繊維の摂取の必要性から、豆類や野菜、乳製品を食べる量を増やす(野菜95kg→100kg、大豆6.7kg→7.4kg、牛乳93.1kg→95kg)
実はこれとほぼ同じ皮算用を1997年にも行なっている。その際は2010年をターゲットに45%を達成しているはずだったが、5年間、向上政策を続けても何ら変わらず40%で横ばい。そこで5年に一度見直す食料・農業・農村基本計画改定時の2003年、こっそり達成時期を5年後に伸ばして、いまの2015年になっている。
前回、目標が実現できなかった背景として、次の3つを挙げる。○1栄養バランスのが優れた『日本型食生活』の実現に向け、国民は自発的にコメの消費を維持するはずだったが、大幅な減少が続いている、○2脂質を多く含む肉の消費量を減少させるはずだったが、逆に増加傾向で推移している○3カロリー供給の脂質割合が28%から27%に低下するはずだったが、逆に29%と増加している。
当然の話だ。われわれが何を食べるか、箸の上げ下げまで農水省がコントロールできるわけがない。
ところが、である。次の3つの反省点を改善すれば、45%を実現できるというのだ。○1国民に食生活改善に取り組み際の具体的手法が示されていない○2国民のライフスタイルの変化を踏まえていなかったので、国産農産物の消費拡大が進まなかった○3本計画策定以降、輸入品の問題が起こり、国民の食の関心が高まっていて、これは国産消費拡大に活用できる。この3つを一気に解決しようとしたのが、先に述べた広報作戦である。電通を使って消費者の食の選択を洗脳できると思い込んでいること自体が空恐ろしい。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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