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特集

ラウンドアップの風評を正す

メディアは本年5月13日、米国カリフォルニア州の陪審員による裁判所が、「除草剤ラウンドアップを約30年間使用したことが原因でがんを発症した」という訴訟で、ドイツのバイエル(モンサントを買収)に20億ドル(約2180億円)余りの賠償金を支払う義務があると認定した」と報じている。バイエル側は、米環境保護庁(EPA)が先月、除草剤の使用に関する暫定的なレビューでも、グリホサートには発がん性がないとしており、また世界の主要な保健当局もグリホサートの発がん性を否定していることを主張したが、陪審の判断はまったくそれとは矛盾する判決となった。バイエルは控訴すると表明している。 この裁判でのバイエル(モンサント)の敗訴の理由はグリホサートの発がん性そのものというより「ラウンドアップの潜在的な危険性について十分な警告をしなかった」という理由である。とはいえ、同州でのラウンドアップの発がん性に関する裁判では3件目の敗訴であり、これでラウンドアップ批判派(遺伝子組換え反対派)の活動はますます活発になるだろう。しかし、幅広く科学的根拠を確認しながら判断を下している我が国の食品安全委員会をはじめ米環境保護庁、EUの欧州食品安全機関(EFSA)などがグリホサートの発がん性を否定していることを忘れないでほしい。
読者諸氏は自信をもってラウンドアップを使用基準に従って利用すべきだし、その根拠をこの特集を通してご理解いただきたい。

ラウンドアップはなぜ風評被害に遭っているのか?

公益財団法人食の安全・安心財団理事長東京大学名誉教授
唐木英明

農学博士、獣医師。1964年、東京大学農学部獣医学科卒業。同大学助手、助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。その後、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、内閣府食品安全委員会専門委員などを歴任。

安全性が高く、有用な除草剤として古くから世界中で使用されているラウンドアップが危険な農薬であるかのような風評被害に遭っている。不正確な論文や恐怖をあおる映画が作られ、非科学的な風評が拡散し、それが裁判にまで影響し、ラウンドアップを必要としている農業者に不安が広がっている。このような事態になった原因は、ラウンドアップが遺伝子組換え(GM)反対の道具に使われたことである。その顛末と対策について考える。

(1)ラウンドアップ

ラウンドアップは米国モンサント社(※1)が1974年に発売した除草剤であり、有効成分はグリホサートという化学物質である。ほとんどの種類の雑草を除草することができるのだが、散布すると短時間で土壌に吸着され、微生物により分解されて消失するので、環境汚染の可能性は小さい。また、後で述べるように安全性が高く、適切に使用する限り人の健康被害はない。このような優れた性質を持つため、世界の160カ国以上で広く使用され、日本や米国では最も多く使用されている。
発売されてから約20年間、ラウンドアップは広く使われ、その安全性について特段の議論はなかった。しかしその後、ラウンドアップの運命は大きく変わり、一部の人たちから毛嫌いされるようになった。そのきっかけは1996年に始まった遺伝子組換え(GM)作物の商業栽培だった。

(2)ラウンドアップレディー

最初に栽培されたGM作物はモンサント社が開発した「ラウンドアップレディー」(ラウンドアップ耐性)と呼ばれるもので、ラウンドアップを散布しても枯れない性質を持った大豆やトウモロコシだった。このGM作物が育つ畑にラウンドアップを散布するとすべての雑草は枯れてしまい、GM作物だけが生き残る。そんな夢のような新技術だ。農業労働の大きな部分を占める除草が簡単になるというメリットのため、ラウンドアップレディーは世界中に広がり、GM作物の大きな部分を占めるようになった。日本でもその安全性の審査が行なわれ、ラウンドアップレディーのトウモロコシ、大豆、菜種、綿などの安全性が確認されている。ラウンドアップもラウンドアップレディーと一体になって売り上げを伸ばした。

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